再始動したGoogleのロボットプロジェクトの内情

ロボット

1.再始動したGoogleのロボットプロジェクトの内情まとめ

・2013年にGoogleが始動した人間そっくりのロボットを作るプロジェクトは頓挫
・現在のプロジェクトは機械学習を用いてシンプルなロボットアーム等を自律学習させる方向にシフト
・Blade Runnerの時代設定は2019年で実は今年。見た事がない方は見ておくと刺激になる

2.ロボットと強化学習の関係

以下、www.nytimes.comより「Inside Google’s Rebooted Robotics Program」の意訳です。元記事は2019年3月26日、Cade Metzさんによる投稿です。例によってJeff Deanが紹介していた記事で、Googleの直近のロボット研究に関する記事です。一番目に紹介されている研究は「TossingBot」、二番目は「Soft Actor-Critic」および「PlaNet」、三番目が「AutoRL」です。まだ、ロボットを動かすために人工知能を使っている段階ですが、TossingBotの記事で暗示されているように人工知能が自律的に学習できるようにするために体(ロボット)を与えると言う段階に徐々にシフトしていくのだろうな、と思います。

2013年、Googleはロボットを開発するための野心的で派手な取り組みを開始しました。現在、その目標はやや控えめになりましたが、技術は着実に進歩しています。

カリフォルニア州マウントビューより。Googleは、かつてセクシャルハラスメントの疑いで会社を辞めた幹部が率いていた野心的ですが問題を抱えたロボティクスプログラムを静かに見直してきました。2013年に始まった、このGoogleによるプロジェクトは米国と日本で6つのロボット関連新興企業を買収するために数千万ドルを費やしました。このプロジェクトには、人間のように見えて、人間のように動く事ができる、ロボットに特化した2つのチームが含まれていました。

Googleの壮大な野望を考慮して、この取り組みを実行したエンジニアリング担当副社長のAndy Rubinは、それをレプリカントと呼びました。 (Replicant:この用語は、もともとSF映画「Blade Runner」で使用された単語です。)

訳注:レプリカントは劇中で人間とほとんど区別がつかない人造人間を指す言葉です。Blade Runnerの時代設定は2019年なので実は今年です。単純な娯楽作品としても面白いですし、本記事を読んだ後だと「人間と機械の関係とは?」「人間を人間と定義するものは何なのか?」等々、考えさせられる部分もあり、やはり名作です。Amazon Prime特典で見れるので見た事がない方は見ておくと刺激になります。

しかし、成果はあまりありませんでした。その後数年間で、Googleは買収した企業を売却するか、あるいは閉鎖しました。最も有名なボストンダイナミクス社は、日本のコングロマリット(複合企業)であるソフトバンクに買収され、現在も人間や動物のように動くロボットの開発に取り組んでいます。Rubin氏は、ハラスメントの申立てを受けた後、2014年にGoogleを退社しました。

Googleは組織を再編成し、複雑なロボティクスのどこに注力すべきかを再検討しました。そして、Rubin氏の研究室の壁に掛かっている人型ロボットよりも、はるかに単純なロボットを使って、ここ数年、プロジェクトを再構築してきました。

新しい取り組みは、Robotics at Googleと呼ばれています。 これには、Rubin氏の下で働いていたエンジニアや研究者の多くが含まれており、Googleの主任科学者であるVincent Vanhouckeが率いています。フランス生まれの研究者であるVanhoucke氏は、同社の中心的な人工知能研究所であるGoogle Brainの開発における重要人物でした。彼のチームは最近、マウンテンビューにあるGoogleのメインキャンパスにある新しいラボに移動しました。

ニューヨークタイムズ紙は最近、同社が取り組んできた技術の一部を初めて取材しました。これらのマシンは人型ロボットのように人目を引くものではないかもしれませんが、Googleの研究者たちは、それらの内部の微妙なより高度な技術が現実世界でより多くの可能性を与えると信じています。

同社は、これらのロボットが自分自身でスキルを習得する方法を開発しています。たとえば、見た事のない物体を沢山並べ替えたり、予期しない障害物でいっぱいになった倉庫を移動したりすることです。Googleの新しいラボは、いわゆる機械学習をロボット工学に応用するためのより広範な取り組みを行っています。

研究者たちは、カリフォルニア大学バークレー校、およびシリコンバレーの首領的人物であるイーロン・マスクやサム・アルトマンによって設立された人工知能研究所であるOpenAIのような場所で同様のテクニックを模索しています。ここ数カ月で、両施設とも彼らの作品を商品化しようと新興企業を設立しました。

多くの人が、機械学習 – 新しい突飛な装置ではありません – が製造、倉庫自動化、輸送および他の多くのタスクのためのロボットを開発するための鍵となると信じています。

「ロボティクスは長い間な想像力を刺激する人気分野でしたが、最も重要な変化を容易にもたらすのは機械学習の応用です」シリコンバレーのベンチャーキャピタル会社であるAmplify Partnersのゼネラルパートナー、Sunil Dhaliwalは述べました。 「実用の鍵はソフトウェアにあります。」

ロボットはすでに倉庫や工場のフロアで使用されていますが、特定の物を拾ったりネジを回したりするなど、特定の作業しか処理できません。Googleはロボットが彼ら自身で働き方を学ぶことを望んでいます。

ある日の午後、Googleの新しい研究所内で、ロボットアームがピンポン玉、木のブロック、プラスチック製のバナナなどのランダムな物でいっぱいになった箱の中に飛び込みました。この乱雑な山の中から、ロボットアームは2本の指の間にバナナをつかみました。そして、手首の穏やかな動きで、それを数フィート離れたより小さな容器に投げ入れました。

これはロボットにとって驚くべき芸当でした。 一番最初に乱雑な山を見た時、ロボットは物を拾う方法さえ知りませんでした。しかし、容器を見下ろすカメラを装備したGoogleのロボットは、約14時間の試行錯誤の中で自身の進歩を分析しました。

ロボットアームは最終的に約85パーセントの割合で物体を正しい箱に投げ入れる事が出来るようになりました。研究者達が同じロボットアーム操作作業を人力で試みたとき、彼らの達成率は約80パーセントにしかなりませんでした。

これはとても簡単な事に聞こえるかもしれませんが、どのようにして物体を掴んで箱に投げ入れるかを機械に教えるためにコンピュータプログラムを書くことは非常に難しい事でしょう。「ロボットは想像した以上に複雑なことを学んでいます」このプロジェクトの主な研究者であるShuran Songは述べました。

研究者達は、これらの機械がAmazonやUPSのような会社によって運営されている倉庫や物流センターで働くことができると信じています。現在、物流センターに出入りする商品を分類しているのは人間です。Googleが開発しているようなシステムは、プロセスの少なくとも一部を自動化することができますが、いつ商用利用できるようになるかは不明です。Amazonはすでに他の種類のロボットを流通センターに展開しており、この種の技術に興味を持っています。

しかし、多くのロボット工学の専門家は、この種の機械学習を実社会で稼働させる事は難しいだろうと警告しています。研究室でうまく機能する従来のテクノロジは、これまで見たこともない予期しない物体や、これまで行った事のない場所に移動する事を必要とする作業を処理できないため、多くの場合、現実世界の物流センター内で機能しません。

「これは全ての問題に対応可能な解決策ではありません」マサチューセッツ州の会社であるRightHand Robotics社のチーフエグゼクティブで、経験豊富なロボット研究者であるLeif Jentoftは述べています。「これらのテクノロジは、時には実際より強力に見えることがあります。」

Googleの研究室のもう1つのコーナーでは、研究者はロボットハンドを使ってオブジェクトを操作する方法をデモしていました。精緻な方法でそれらを押したり引いたり回転させたりするのです。

3本指の手は、少なくとも肉体的にはあまり複雑ではありません。 彼らが学ぶのを助けるソフトウェアは画期的なものであり、研究者たちはロボットハンドが道具や他の機器を使うことを最終的に学習できるようになる事を希望しています。

Googleは、そのすべてのロボットハードウェアで同様のアプローチを取っています。すなわち、オブジェクトを箱に入れるアームは、Googleのエンジニアによって設計されたマシンではありません。デンマークのユニバーサルロボット社によって開発されたロボットアームは、製造業や他のタスクに一般的に使用されており、Googleもこのロボットアームを使い、ロボットができない事をロボットにさせるためにロボットを訓練しています。

このプロジェクトを監督しているGoogleの研究者であるVikash Kumarは、次のように述べています。「ロボットが現実世界から学ぶ事は、低コストロボットを開発するために役立ちます」

第3の研究では、シリコンバレーの新興企業であるFetchが販売している移動ロボットをベースに研究を行っています。このロボットは、突然障害物が現れるようなロボットにとって困難な状況で今まで行った事がない場所に移動する事を学んでいます。この技術は、倉庫や工場のような場所で役立ちます。

Googleは、現在取り組んでいる技術をどのようにビジネス展開していきたいと考えているのかについて硬く口を閉ざしています。しかし、他の自動化技術と同様に、それが雇用を奪うかどうかという明らかな疑問があります。

「そうならない未来を想像するのは困難です」ビジネスリサーチ機関であるMcKinsey Global InstituteのパートナーであるMichael Chuiは述べました。

しかし他の研究者達は、ロボットはそれを置き換えるのではなく人間の労働を補完すると信じています。「ロボットがする事ができない多くの業務が倉庫業務には残っています」Berkeleyのロボット工学教授であり、新しいスタートアップ企業のAmbidexterous Robotics社の研究員の一人であるKen Goldbergは述べました。「ロボットができることは、厄介な業務の一部を支援することです。」

 

3.再始動したGoogleのロボットプロジェクトの内情関連リンク

1)www.nytimes.com
Inside Google’s Rebooted Robotics Program

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