BardとGPT:検索エンジン時代からAI検索時代への変化を情報発信視点で考える

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1.BardとGPT:検索エンジン時代からAI検索時代への変化を情報発信視点で考えるまとめ

・Microsoftの検索エンジンBingにAIが組み込まれるとの報道とほぼ同時期にGoogleも対話型人工知能LaMDAをベースにしたBardを組み込む発表があった
・従来の検索エンジンは事実に関する答えを得る事ができたがAI検索機能は複雑な情報や複数の視点をわかりやすい形に抽出する機能を持つという
・情報収集の視点からはバラ色の未来だが情報発信の在り方についても大きな影響を及ぼす可能性があり、その影響についてはまだ十分に見えてこない

2.GoogleのBardの発表

以下、blog.googleより「An important next step on our AI journey」の意訳です。元記事は2023年2月6日、Sundar Pichaiさんによる投稿です。

2年後にはGoogle検索を代替してしまうかもしれないとも言われているchatGPTへの対抗策として発表されたBardの公式リリース記事です。検索エンジン新時代到来か!と、かなり世の中を騒がせているようなので、私の意見も添えて意訳しておくことにしました。

アイキャッチ画像はstable diffusionのカスタムモデルによる生成で、本当はロボットと対話している感じのナウシカを描きたかったのですが、何故かロボと一体化してしまい、しかし、躍動感あふれるテトが描けたのでヨシとしたイラスト

AIは、私たちが現在取り組んでいる最も深遠なテクノロジーです。

医師が病気を早期に発見できるようにしたり、人々が自分ので情報にアクセスできるようにしたりと、AIは人々や企業、コミュニティの潜在能力を引き出す手助けをしています。そして、何十億もの人々の生活を大きく向上させる可能性のある新たな機会を切り開くのです。このような理由から、私たちは6年前にAIを中心に会社を再編成し、世界の情報を整理し、誰もがアクセスできて役立つようにするという私たちの使命を果たすための最も重要な方法と位置づけています。

それ以来、私たちは全面的にAIへの投資を続け、Google AIとDeepMindは最先端の技術を発展させています。現在、最大のAI計算の規模は6カ月ごとに倍増しており、ムーアの法則をはるかにしのいでいます。同時に、高度な生成AIや大規模な言語モデルが、世界中の人々の想像力をかきたてています。実際、私たちのTransformer研究プロジェクトと2017年に発表したこの分野を定義する論文、そして拡散モデルにおける私たちの重要な進歩は、今日皆さんが目にし始めた多くのAI生成アプリケーションの基礎となっているのです。

バード(Bard)の紹介

奥深い研究とブレークスルーを、真に人々の役に立つ製品に変換する技術に取り組むのは、本当にエキサイティングなことです。これは、私たちが大規模言語モデルとともに歩んできた道程です。2年前、私たちは「対話アプリケーションのための言語モデル(LaMDA:Language Model for Dialogue Applications)」を搭載した次世代の言語と会話の機能を発表しました。

私たちは、LaMDAを搭載した実験的な会話型AIサービス「Bard(訳注:吟遊詩人の意味です)」に取り組んでいます。そして今日、私たちはさらに一歩前進し、信頼できるテスターにこのサービスを公開し、今後数週間でより広く一般に利用できるようにします。

Bardは、世界中の幅広い知識と、私たちの大規模な言語モデルのパワー、知性、創造性を融合させることを目指しています。また、ウェブ上の情報を活用し、新鮮で質の高い回答を提供します。Bardは、NASAのJames Webb宇宙望遠鏡の新しい発見を9歳の子供に説明したり、今サッカー界で最高のストライカーについて学び、そのスキルを高めるための訓練法を知るなど、創造性の発露、好奇心の発射台となることができます。

(訳注:実際のデモ時に「9歳の子どもに教えられるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による新発見とは何か?」という質問を受けて「太陽系外の惑星の写真を最初に撮影した」という誤った回答を行い、Googleの株価が7%下がるという事件がおきました)


NASAのJames Webb宇宙望遠鏡の新しい発見を9歳の子供に説明するような、複雑なトピックを簡略化するためにBardを使用することができます。

私たちは、まずLaMDAの軽量モデルバージョンと一緒にリリースしています。この軽量モデルは、必要な計算能力が格段に低いため、より多くのユーザーに対して規模を拡大でき、より多くのフィードバックが可能になります。私たちは、外部からのフィードバックと内部テストを組み合わせて、Bardの応答が品質、安全性、実世界の情報に基づいた高い水準を満たしていることを確認するつもりです。私たちは、Bardの品質とスピードを向上させるために、このテストフェーズを楽しみにしています。

AIの利点を身近な製品に活かす

私たちは、何十億もの人々が使うGoogle検索を改善するためにAIを使用してきた長い歴史を持っています。BERTは、私たちの最初のTransformerのモデルの一つで、人間の言語の複雑さを理解する上で革命的な存在でした。2年前、私たちはBERTの1,000倍の性能を持つMUMを発表しました。MUMは、動画の重要な瞬間をピックアップし、危機管理を含む重要な情報をより多くの言語で提供できる、次のレベルの多言語情報理解能力を備えています。

現在、LaMDA、PaLMImagen、MusicLMなどの最新のAIテクノロジーは、これをベースに、言語や画像、動画、音声など、まったく新しい情報への関わり方を創造しています。私たちは、こうした最新のAI技術を、検索をはじめとする私たちの製品に取り入れるべく取り組んでいます。

最もエキサイティングな機会のひとつは、AIによって情報への理解が深まり、より効率的に情報を有用な知識に変えることができるようになることです。人々が探しているものの核心に迫り、物事を成し遂げることが容易になります。

Google検索といえば、「ピアノの鍵盤はいくつ?」など、事実に関する素早い答えを得るために利用するイメージがあります。しかし、最近では、「ピアノとギターはどちらが習得しやすいか?それぞれどの程度の練習が必要か?」といった、より深い洞察や理解を求めてGoogleを利用する人が増えています。このようなトピックの学習は、本当に必要なことを知るために多くの労力を必要としますし、人々はしばしば多様な意見や観点を探求したいと思うものです。

近い将来、複雑な情報や複数の視点をわかりやすい形に抽出するAI搭載の検索機能が登場し、全体像をすばやく理解して、ウェブからより多くを学ぶことができるようになります。

ピアノとギターの両方を演奏する人のブログのような新しい視点を探したり、初心者のためのステップのような関連するトピックをより深く掘り下げることもできます。これらの新しいAI機能は、まもなくGoogle検索で展開される予定です。


見識を探すとき、SearchのAI機能は情報を抽出し、全体像を把握するのに役立ちます。

AIを活用した開発者のイノベーションを支援

私たちは、自社製品だけでなく、私たちの最高のモデルの上に構築することによって、他の人々がこれらの進歩から利益を得ることができるように、簡単で安全で規模拡大可能にすることが重要であると考えています。

来月には、個人の開発者、クリエイター、企業が生成言語APIの利用を開始出来るようにします。最初はLaMDAとそれに続く様々なモデルによって提供されます。いずれは、AIを使ったより革新的なアプリケーションを簡単に構築できるようなツールやAPIのセットを作成する予定です。

また、信頼性が高く、信用できるAIシステムを構築するために必要な計算能力を持つことは、スタートアップ企業にとって非常に重要であり、先週発表されたばかりのCohere、C3.ai、AnthropicとのGoogle Cloudパートナーシップを通じて、こうした取り組みの規模拡大を支援できることを嬉しく思っています。開発者向けの詳細については、近日中に発表いたしますので、ご期待ください。

大胆に、そして責任を持って

これらのモデルに根ざした体験を、大胆かつ責任ある方法で世に送り出すことが非常に重要です。そのため、私たちは責任を持ってAIを開発することを約束します。2018年、Google は一連のAI原則を発表した最初の企業の 1 つとなりました。Google は、研究者のための教育やリソースを提供し、政府や外部組織と提携して標準やベスト プラクティスを開発し、コミュニティや専門家と協力して AI を安全かつ有用なものにする取り組みを続けています。

AIを応用して自社製品を根本的に変えるにせよ、こうした強力なツールを他社に提供するにせよ、私たちはこれからも大胆なイノベーションを続け、責任あるアプローチで臨んでいくつもりです。そして、これはほんの始まりに過ぎません。今後数週間、数カ月にわたって、これらすべての分野でさらなる取り組みが行われます。

Webbigdataの追記

以下「検索エンジンにパラダイムシフトが起こったら情報発信の在り方はどのように変わるのか?」について私の現在の少し悲観的な予想を付記しておきます。

(1)反人工知能の流れがWebサイトにも及ぶ

Bing検索では、今後、AIが検索結果に対して直接答えるようになっていくとの事。

人工知能が回答を作成するにあたって参考にしたWebサイトにはリンクが張られるとの事ですが、おそらく、そのリンクをクリックする人は極少数であり、悲観的な試算では1割程度です。(2023年3月20日追記:1割も行きませんでした。Webbigdata実績で「Bing Chat検索経由流入数」÷「従来のBing検索流入数」は0.3%でした。)

試算根拠は、Google検索とWebbigdataの実績です。

現在のGoogle検索でも検索結果に対する回答がブラウザ画面上部に直接表示される事があります。

あの位置はGoogle analytics等では検索結果1位扱いであり、且つ回答にあたって参照にしたページへのリンクは明記されているのですが「検索結果1位のキーワードがほとんどクリックされずに流入に結びつかない問題」が存在するのです。

大半の人は手っ取り早く情報を得たいだけなので、元ページまで確認しようとする人は皆が思っている以上に少ないです。

特に人間には「アンカーバイアス(anchoring bias)と自動化バイアス(automation bias)」という2つの弱点があるので、最初に接した情報を基準にしてしまい、更に何等かの自動システムが出した答えを無条件に信じてしまう傾向があるのです。

前述のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の話を思い出してください。おそらく非常に優秀であろうGoogleのデモ担当者が、絶対に失敗したくなかったであろう場面で、あらかじめAIの発言の真偽をしっかりと裏取りしていなかったという事実をです。
(本記事内の画像にも誤回答例がバッチリと映っており、投稿日が2月6日なので事前チェックする時間は十分ありました)

検索エンジン時代よりAI検索時代の方が、AI検索結果を人間がそのまま受け入れる傾向は更に強まるはずなのです。

AI検索が集客に繋がらず潜在顧客との接点が一企業に独占されてしまう認識が広がってくると、おそらくはBing等のAI検索用のクローラーを拒否するサイトや、EUなどからAI検索に何らかの法的義務/規制を実施しようとする動きが出てきそうだとは感じています。

(2)小規模サイト/個人ブログの衰退が更に進む

悲しい事に既に小規模サイト/個人ブログの衰退は激しいですが、前述の流入減少に加え、AIを使って記事を量産するサイトや、AIを使って他サイトの記事を丸パクリしてバレないようにリライトするサイトなども可能になるので、何らかの形でアクセス数がサイトの収入/存在意義/モチベーションに直結している小規模サイトは継続が更に難しくなるのではないかと考えます。

大規模マスメディアであれば既にGoogle NewsがやっているようにAI検索運営側に補填を求める事が出来るかもしれませんが、その流れに乗れないサイトは更に厳しくなっていくでしょう。

私の試算を信じる、信じないは別として、頭の体操と思って「検索経由の流入が今の1/10になったら世の中のサービスはどうなっていくだろう?」を考えておくのは悪くない考えと思います。

(3)情報の囲い込みと分断化

これも既に起こっている事ではありますが、
・全文を読むためにはメールアドレス登録や有料会員登録を必須する情報囲い込みサイトが増える
・Webページではなくチャット系(Discord, Slack)、動画系(TikTok, youtube)、その他のSNS系(Mastodon)に情報分断が進む
FacebookやTwitterはWebページと同様に「何でも相談/検索に対応するAIチャットボット」と親和性が高いサービスなので、近い将来、Webページと同じようなAI検索機能が発表されても私は驚かないです。

(4)検索エンジン最適化も衰退していく

検索エンジン最適化、すなわちSEOの従来の王道は「ユーザに本当に役立つ記事を書けば、いずれは検索エンジンに評価されて検索結果ランキングがあがり流入増に繋がる」です。

しかし「コストをかけてユーザに役立つ記事を書いてもAIチャットボットに横取りされてしまうので流入数アップや存在感向上にほとんど繋がらない」という共通認識が出来てしまうと、この王道が「古き良きインターネット時代のお話」と見なされるようになる可能性があります。

検索しても良い記事を中々見つける事が出来ないと、人は更にAIチャットボットに頼るようになり、その結果、インターネットの過疎化が更に進み、AIチャットボットが参考に出来るしっかりとした記事もどんどん少なくなり、後には古く、不正確で、セールストークを鵜呑みにしたような情報をまき散らすAIチャットボットと、分断化され荒廃したインターネットだけが残る…

かなり悲観的な予想ですが、情報収集が楽になるバラ色の世界観視点から書かれた記事がほとんどで、情報発信への影響という視点をほとんど見かけないので敢えて書いてみました。意図的と思いますが、本稿で意訳したGoogleの記事だけではなく、Microsoftの新検索エンジンリリース記事内にも情報発信側に予想される影響は一切書かれていません。

貴方がAIにやってもらった知的作業は、誰かの知的作業の生産物からAIが学習した結果ですが、貴方はその誰かが存在する事に気づかず、感謝する事も料金を支払う事もないでしょう。そして、貴方の知的作業の生産物も貴方の知らないところで同様に扱われる事になりますが、貴方はその事実に中々気づかないでしょう。

人間の1日は24時間しかないので、チャットボットと対話する時間が増えれば、その分、他の何かに費やしていた時間、おそらくネット検索回数やお気に入りのWebサイト/SNS閲覧時間は減るでしょう。

かなり悲観的ですが、おそらく私は変化を恐れており、古き良きインターネットがもう帰ってこないかもしれない事を悲しむ気持ちもあるのだと思います。

もしかしたら、Google一強の現在よりは競争原理が働いて良くなる可能性もあります。そして、この変革はWebbigdataを含めてあらゆる人が乗り越えなければならなくなるイノベーションの一環だと考えてはいますが「AI検索時代の情報収集のあり方」だけではなく「AI検索時代の情報発信のあり方」も真剣に考えていくべき事なんだろうな、と思いつつ、特に良い案も思いつかずに今は悶々としています。

3.BardとGPT:検索エンジン時代からAI検索時代への流れを情報発信視点で考える関連リンク

1)blog.google
An important next step on our AI journey

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