1.量子プロセッサの性能が安定しない理由まとめ
・量子コンピューターは高い性能を実現しつつあるがパフォーマンスが安定しない
・パフォーマンスが安定しない原因に関連する事象をGoogleの研究者が発見
・量子ビットを用いて超電導回路を探索する事でパフォーマンスの変動を観測できた
2.量子ビットを用いて超電導回路を探索する
以下、ai.googleblog.comより「Understanding Performance Fluctuations in Quantum Processors」の意訳です。
Google AI Quantumチームが追求している研究分野の1つは、超伝導回路から量子プロセッサを構築することです。超伝導回路は、量子ビット(キュービット)を実現する有力な候補です。超電導回路は、適切なサイズのプロセッサで数十キュービットを実現しています。つまり最先端の性能と拡張性を実証しているのですが、残る大きな課題は予期せぬ変動をするパフォーマンスを安定させることです。多くの超伝導キュービットアーキテクチャにおいて、パフォーマンスの変動が観察されていますが、それらの原因は十分に解明されておらず、プロセッサ性能の安定化を妨げています。
今週のPhysical Review Lettersに掲載された論文「Fluctuations of Energy-Relaxation Times in Superconducting Qubits」で、私達は、キュービットを超伝導回路の環境を探索する探査機として使用し、パフォーマンスの変動が材質の欠陥による事を示しました。これは、量子ビットのエネルギー緩和時間(T1)を調べることによって行われました。T1はキュービットが励起状態から基底状態にエネルギーを緩和するのに要する時間の長さを、動作周波数と時間の関数として表す一般的な性能指標です。
T1の測定では、キュービットの動作周波数のいくつかが他よりも著しく悪く、エネルギー緩和ホットスポットを形成することがわかりました(下図参照)。我々の研究は、これらのホットスポットが材料の欠陥に起因することを示唆しています。それは、周波数が重なり合う(すなわち、「共鳴する」)ときに量子ビットからエネルギーを引き出す量子システムそのものです。驚くべきことに、我々は、エネルギー緩和ホットスポットが静的ではなく、数分から数時間の範囲で「移動」することを見出しました。これらの観測から、キュービットと共鳴を引き起こす欠陥部が、最も顕著な性能変動を引き起こすと結論づけました。
左:キュービットの性能変動を調べるために使用されたのと同等の量子プロセッサ。1つの量子ビットが青で強調表示されています。
右:キュービットのエネルギー緩和時間「T1」は、動作周波数と時間の関数としてプロットされています。我々のデータが示唆しているエネルギー緩和ホットスポットは、黒い矢じりのように見える部分です。キュービットと共鳴したりしなかったりするこれらのホットスポットの動きは、キュービットのパフォーマンス変動の最も重要な原因となります。これらのデータは、平均以上の欠陥密度を有する周波数帯域で測定された事に留意してください。
通常、2レベルシステム(TLS:two-level-systems)と呼ばれるこれらの欠陥は、一般に、超伝導回路の材料の合わせ目に存在すると考えられています。しかし、何十年もの研究の後でさえ、その極微少な根源は依然として研究者を困惑させています。キュービットの性能変動の原因を明らかにすることに加えて、我々のデータは、このパズルの重要な部分である欠陥ダイナミクスを司る物理学に光を当てました。
興味深いことに、熱力学の議論から、私たちは欠陥が力学的なものである事を期待していません。彼らのエネルギーは、量子プロセッサで利用可能な熱エネルギーよりも約1桁高いので、彼らは “凍って”いるはずなのです。それらが凍っていない事実は、それらが、はるかに低いエネルギーを有する(したがって熱的に活性化され得る)他の欠陥との相互作用によって駆動され得ることを示唆しています。
キュービットが、キュービットの何百万分の1よりも小さい原子レベルの個々の材料の欠陥を調べるために使用できるという事実は、それらが強力な計量ツールであることを実証しています。欠陥の研究が材料物理学における重要な問題を解決するのに役立つことは明らかですが、今日の量子プロセッサの性能を向上させることに直接的な意味があることは驚くべきことかもしれません。事実、欠陥計測は、当社のプロセッサの設計と製造、さらには量子プロセッサの実行時に欠陥を避けるために使用する数学的アルゴリズムさえも既に知らされています。この研究が超電導回路の重大な欠陥を理解するためのさらなる動機となることを願っています。
3.量子プロセッサの性能が安定しない理由まとめ
1)ai.googleblog.com
Understanding Performance Fluctuations in Quantum Processors
2)journals.aps.org
Fluctuations of Energy-Relaxation Times in Superconducting Qubits
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