高エネルギー状態が引き起こす量子エラーの調査(1/2)

量子コンピュータ

1.高エネルギー状態が引き起こす量子エラーの調査(1/2)まとめ

・量子プロセッサーは量子ビットから構成されており環境ノイズから影響を非常に受けやすい
・特殊な低温槽に設置して極低温に冷却する事で熱雑音を低減しているが宇宙線は防げない
・高エネルギー粒子が量子プロセッサーに衝突したときの影響を特定する調査を行った

2.高エネルギー状態が引き起こす量子プロセッサのエラー

以下、ai.googleblog.comより「Resolving High-Energy Impacts on Quantum Processors」の意訳です。元記事の投稿は2022年1月26日、Matt McEwenさんとLara Faoroさんによる投稿です。

宇宙線をイメージしたアイキャッチ画像のクレジットはPhoto by Pawel Czerwinski on Unsplash

量子プロセッサーは、超伝導量子ビット(量子ビット)で構成されています。量子ビットは、量子物体であるため、わずかな環境ノイズからも影響を非常に受けやすくなっています。

このノイズは量子計算時にエラーの原因となるため、量子コンピュータを発展させるためには、このノイズに対処する必要があります。Sycamoreプロセッサーは、特殊な低温槽(cryostats)に設置され、迷光(stray light)や電磁場から遮断され、極低温に冷却され、熱雑音を低減しています。

しかし、世の中には高エネルギーの放射線があふれています。実際、高エネルギーのガンマ線やミューオンが、私たちの身の回りのものを常に通り抜けているという背景があります。これらの粒子の相互作用は非常に弱いため、日常生活で害を及ぼすことはありませんが、量子ビットは感度が高いため、弱い粒子の相互作用でさえ重大な干渉を引き起こす可能性があるのです。

Nature Physicsに掲載された論文「Resolving Catastrophic Error Bursts from Cosmic Rays in Large Arrays of Superconducting Qubits」では、この高エネルギー粒子が量子プロセッサーに衝突したときの影響を特定します。

個々の衝突事象を検出・研究するために、私たちは新しい高速反復測定技術を用い、量子プロセッサーを粒子検出器のように動作させています。これにより、チップ内に広がる突発エラーを評価することができ、この相関エラーの重要な原因についてより深く理解することができます。

高エネルギー衝撃時の動き

Sycamore量子プロセッサーは、シリコン基板上に超伝導アルミニウムを極薄に積層し、そこに量子ビットを定義するパターンをエッチングして作られています。

各量子ビットの中心にはジョセフソン接合(Josephson junction)という超伝導部品があり、これが量子ビットの異なるエネルギー準位を定義し、計算に使用されます。

超伝導金属では、電子が結合してマクロ視点での量子状態となり、抵抗ゼロの電流(超電流)として流れることができるようになります。超伝導量子ビットでは、ジョセフソン接合を往復する超電流の振動パターンの違いを用いて情報を符号化します。

十分なエネルギーが加わると、超伝導状態が解体され、準粒子(quasiparticles)が生成されることがあります。この準粒子には、振動する超電流からエネルギーを吸収してジョセフソン接合を飛び越え、量子ビットの状態を変化させ、エラーを発生させるという問題があります。

そのため、チップがエネルギーを吸収して準粒子を発生させる事がないように、電界や磁界を徹底的に遮蔽し、強力な冷凍機でチップを絶対零度に近づけることで、熱エネルギーを最小限に抑えているのです。

一方、遮蔽しきれないエネルギー源として、荷電粒子や光子など、ほとんどの物質を直進して通過する高エネルギー放射線があります。これらの粒子の発生源のひとつが、どこにでも存在する微量の放射性元素です。たとえば、建材や低温槽に使われている金属、そして空気中にも含まれています。

また、超新星爆発やブラックホールから発生する高エネルギー粒子である宇宙線(cosmic ray)も発生源となります。宇宙線は、超新星爆発やブラックホールから発生する高エネルギー粒子で、大気圏上層部に衝突すると、高エネルギー粒子のシャワーとなって地表やチップに降り注ぎます。放射性不純物と宇宙線のシャワーの間で、数秒に一度、高エネルギー粒子が量子チップを通過することが予想されます。


高エネルギーの衝撃現象が起こると、エネルギーはフォノン(phonons)という形でチップ内に広がります。これが超伝導量子ビット層に到達すると、超伝導状態を破壊して準粒子を生成し、私たちが観測する量子ビットエラーを引き起こします。

3.高エネルギー状態が引き起こす量子エラーの調査(1/2)関連リンク

1)ai.googleblog.com
Resolving High-Energy Impacts on Quantum Processors

2)www.nature.com
Resolving catastrophic error bursts from cosmic rays in large arrays of superconducting qubits

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