量子プロセッサの極低温制御への道(2/2)

量子コンピュータ

1.量子プロセッサの極低温制御への道(2/2)まとめ

・配線の問題をクリアするため量子ビットを制御する装置を極低温で稼働可能にする必要があった
・なおかつ、装置内の温度を上げて量子の活動に影響を与えないために消費電力を抑える必要もあった
・両方の課題を実現し、第一世代量子コンピュータを実現するための量子制御装置が実現した

2.量子コンピュータを極低温で制御するために必要な事

以下、ai.googleblog.comより「On the Path to Cryogenic Control of Quantum Processors」の意訳です。元記事の投稿は2019年2月21日、Joseph BardinさんとErik Luceroさんによる投稿です。量子コンピュータの世界は研究室の中の実験的な世界に感じていたのですが、今回はCMOSという単語が出てきました。自作パソコンを組んだ事のある方はパソコン起動時のBIOS操作画面でCMOSという単語を見た事があると思います。Cirqの記事で「フレームワーク」という単語が出てきた際にも感じたのですが、量子コンピューターは徐々に現在のコンピューターサイエンスの概念を取り込みつつあり、研究室の外に出てくる日に着実に近づいているのかな、と思います。前編はこちら

Coolなアイディア
マサチューセッツ大学のJoseph Bardin教授と共同で、低温槽内から量子ビットを制御して将来の量子プロセッサとの間の物理的なI/O接続を極限まで減らすカスタム集積回路(IC:Integrated Circuits)の開発に着手しました。これらのICは、超低温環境、具体的には3ケルビン(-270度)で動作し、デジタル命令を量子ビット用のアナログ制御パルスに変換するように設計されています。

重要な研究目的は、低温槽内の温度上昇を防ぐために、まず低消費電力のカスタムICを設計することでした。私たちのICは、3ケルビンで2ミリワット以下の電力しか消費しないように設計されています。これは、ほとんどの物理CMOSモデルが300ケルビン(26.85度)に近い環境での動作を想定しているため困難です。

低消費電力設計の制約を念頭に置いてICを設計および製造した後、低温CMOS量子ビットコントローラが室温で動作することを確認しました。それから、それを低温槽に3ケルビンの温度設定で設置し、それを量子ビット(同じ低温槽内の10ミリケルビンで設置)に接続しました。極低温CMOS量子ビットコントローラが設計どおりに機能すること、そして最も重要なことは、低温槽内を温める単なるヒーターにならない事を確認するために一連の実験を行いました。


Googleの低温槽の3ケルビンのステージに搭載され、量子ビットに接続された極低温CMOS量子コントローラの概略図。Googleの標準量子制御電子機器を並列に接続しており、その状態のままで量子の制御および測定が可能

低温での性能
T1(量子ビットが初期化されるまでの時間)、Rabi振動(量子もつれの操作指標)、シングル量子ゲートを含む私たちの新しい量子制御ハードウェアのベースライン実験は、標準の室温量子制御エレクトロニクスと比較して同様の性能を示しています。

量子維持時間(qubit coherence time:量子状態を維持できる時間)は実質的に変わらず、低温CMOS量子ビットコントローラからのパルスの振幅を変化させることによって高視認性のラビ振動が観測されました。
以下はコントローラーから駆動された量子ビットの応答です。


標準および極低温量子制御装置を用いて測定した量子維持時間の比較

 


極低温コントローラを使って測定されたRabi振幅振動。緑と黒の線は、それぞれ1と0の状態で量子を測定する確率です。

次のステップ
これらの結果はどれも有望ですが、この第1世代の極低温CMOSキュビットコントローラは、本当に規模拡大可能な量子制御および測定システムに向けた小さな一歩に過ぎません。たとえば、私たちのコントローラは単一量子にしか対応できず、それでも室温で動く機器へのいくつかの接続が必要です。更に、シングル量子ビットゲートのエラー率を定量化するために、依然として多くの努力をする必要があります。このようにして、私たちは、量子ビットを制御するのに必要なエネルギーを減らしつつ、それでも高品質の量子ビット操作を実行するのに必要な繊細な制御を維持できた事に興奮しています。

謝辞
この作業は、Google Visiting Researcherプログラムの支援を受けながら行われました。マサチューセッツ大学アマースト校の准教授であるBardin氏はGoogle AI Quantumチームと共に研究を行いました。この作業は、Google AI Quantumチームのメンバーの多大な貢献なしには不可能でした。特にEvan Jeffrey氏は、cryo-CMOSコントローラを量子ビット較正ソフトウェアに統合し、Ted White氏はオンデマンド量子ビット較正、Trent Huang氏は疲れを知らぬデザインルールチェックを行っています。

(量子プロセッサの極低温制御への道(1/2)からの続きです)

3.量子プロセッサの極低温制御への道(2/2)関連リンク

1)ai.googleblog.com
On the Path to Cryogenic Control of Quantum Processors

コメント

タイトルとURLをコピーしました