実用的な量子コンピュータの実現に必須の量子エラー訂正技術の最前線(2/2)

量子コンピュータ

1.実用的な量子コンピュータの実現に必須の量子エラー訂正技術の最前線(2/2)まとめ

・QECが規模に応じて向上するようにするためナノ加工から最適化制御まであらゆる側面を改善した
・よりサイズの大きい距離5グリッドが距離3グリッドより信頼度5𝛔で4%上回る状況を達成できた
・今後も物理量子ビットの改良を続けて577量子ビットが十分な信頼度を達成できれば最終目標に到達可

2.マイルストーンへの到達

以下、ai.googleblog.comより「Suppressing quantum errors by scaling a surface code logical qubit」の意訳です。元記事の投稿は2023年2月22日、Hartmut NevenさんとJulian Kellyさんによる投稿です。

アイキャッチ画像はstable diffusionのカスタムモデルによる生成

高品質な物理量子ビットの作成と制御

QECが規模に応じて向上する領域に入るには、物理的な量子ビットのナノ加工から量子システムの最適化された制御まで、量子コンピュータのあらゆる側面を改善することが必要です。この実験は、QEC用に最適化された最先端の第3世代Sycamoreプロセッサ・アーキテクチャで、表面符号を使用して実行され、全面的な改善が見られました。

・製造プロセスの改善と量子プロセッサー近傍の環境ノイズ低減により、量子ビットの緩和・消滅寿命を向上

・量子プロセッサの回路設計とナノ加工の最適化により、並列動作時のすべての物理量子ビット間の混信を低減

・カスタムエレクトロニクスの改良により、ドリフトを低減し、量子ビット制御の忠実度を向上

Sycamoreプロセッサの前世代と比較して、より高速で高忠実な読み出しとリセット動作を実現

・量子システム全体のモデル化とシステム最適化アルゴリズムの改良により、キャリブレーションエラーを低減

・文脈を考慮した完全並列キャリブレーションを開発し、ドリフトを最小限に抑え、QEC回路の制御パラメータを最適化

・アイドリング動作中のノイズや混信から物理量子ビットを保護するための動的デカップリング・プロトコルを強化

実行用表面符号回路

これらの改良を施した上で、17量子ビットの距離3表面符号(ε3)と49量子ビットの距離5表面符号(ε5)の論理誤り率の比(𝚲3,5)を比較する実験を行いました。𝚲3,5 = ε3/ε5。


距離3(d=3)と距離5(d=5)の表面符号の論理的忠実度(1-εで定義)を比較した図
距離5符号は、距離3の配置が4つ可能であり、その1例を赤い輪郭で示しました(左)。
改良が進むにつれて、d=5の忠実度はd=3の忠実度を上回るようになり、最終的には距離3符号を追い越すようになりました(右上)。

この実験結果を上右側に示します。数ヶ月に渡る継続的な改善により、両グリッドの論理エラーを減らすことができ、距離5グリッド(ε5 = 2.914%)は距離3グリッド(ε3 = 3.028%)を信頼度5𝛔で4%(𝚲3,5 = 1.04)上回るに至たりました。

これは小さな改善と思われるかもしれませんが、この結果は1995年のPeter ShorのQEC提案以来、この分野では初めてのことであることを強調する必要があります。より大きな符号がより小さな符号を凌駕することは、QECの重要な特徴であり、量子応用に必要な低エラーへの道を実現するためには、すべての量子コンピュータ・アーキテクチャがこのハードルを通過する必要があるのです。

進むべき道

これらの結果は、私たちが実用的なQECの新時代に突入していることを示しています。Google Quantum AIチームは、この新しい時代における成功をどのように定義するか、またその途中の進捗をどのように測定するかについて、ここ数年、考えてきました。

最終的な目標は、量子コンピュータを有意義なアプリケーションで使用するために必要な低エラーを達成するための道筋を示すことです。そのために、QECの1サイクルあたりの論理誤差を\(10^6\)分の1以下にすることを目標に掲げています。

下図(左)は、この目標を達成するための道筋を示したものです。物理量子ビットの改良を続けることで、(したがって論理量子ビットの性能も)徐々に𝚲を1近くから大きな数値に増やしていくことが期待できます。下図は、𝚲=4、符号距離17(十分な品質の物理量子ビット577個)の場合、論理エラー率が目標の\(10^6\)分の1以下になることを示しています。

この目標の実現はまだ数年先のことですが、限られた状況下ではありますが、現在のハードウェアで同等の低いエラーレートを調査する実験技術があります。

2次元の表面符号ではビット反転エラーと位相反転の両方のエラーを訂正することができますが、条件を緩和して1種類のエラーしか解決できない1次元の繰り返し符号を構築することも可能です。

下の右図では、距離25の繰り返し符号で、サイクルあたりのエラーレートが106分の1に近い値になることを示しています。このような低エラー環境では、私たちの表面符号ではまだ観測できない新しい種類のエラーメカニズムが見られます。これらのエラーメカニズムを制御することで、繰り返し符号を\(10^7\)分の1に近いエラー率に改善することができます。


左:表面符号の性能( 𝚲で定量化)と規模(符号距離で定量化)を向上させることで期待される経過。
右図:1次元繰り返し符号と2次元表面符号の距離に対する1サイクルあたりの論理エラー率を実験的に測定

このマイルストーンへの到達は、量子コンピュータが古典コンピュータを凌駕することを実証した後、Google Quantum AIチーム全体が3年間集中して取り組んできた成果です。

誤り訂正機能を持つ量子コンピュータの実現に向け、今後も上図の目標エラー率を用いて進捗を測定していきます。次のマイルストーンに向けてさらに改良を加えれば、論理エラーを指数関数的に抑制できる誤り訂正段階に入り、エラーが訂正された最初の有用な量子アプリケーションを実現できるものと期待しています。

それまでは、物性物理学から化学、機械学習、材料科学に至るまで、量子コンピュータを使ったさまざまな問題解決の方法を模索し続けています。

3.実用的な量子コンピュータの実現に必須の量子エラー訂正技術の最前線(2/2)関連リンク

1)ai.googleblog.com
Suppressing quantum errors by scaling a surface code logical qubit

2)www.nature.com
Suppressing quantum errors by scaling a surface code logical qubit

タイトルとURLをコピーしました