1.2022年のGoogleのAI研究の成果と今後の展望~自然科学編~(1/2)まとめ
・ゼブラフィッシュの脳内の神経細胞経路を情報がどのように伝わるかを調べ、ゼブラフィッシュが群れなどの社会行動をとる仕組みを解明することができた
・この研究はn次元データの保存と操作のために設計されたオープンソースのC++およびPythonソフトウェアライブラリであるTensorStoreにもつながった
・人間の言語処理と自己回帰型深層言語モデルを比較する事で人間の脳とDLMが言語処理用の計算原理を共有していることを示唆する結果を得た
2.神経生物学の成果
以下、ai.googleblog.comより「Google Research, 2022 & beyond: Natural sciences」の意訳です。元記事の投稿は2023年2月21日、John Plattさんによる投稿です。
人間の脳と人工知能はおそらく同じ原理で動いていないであろうとはよく言われるのですが、今回のお話のように部分的には脳で確認された現象が人工知能でも確認されるという事例は他でもあり、中々興味深いところです。
アイキャッチ画像はstable diffusionのカスタムモデルによる生成で分子模型が机の上にある状態をイラスト化したかったのですが、色々頑張っても机上には謎物体しか出現せず途方に暮れていたら、同じように途方に暮れてる感じの表情のイラストになったので採用したイラスト
(本記事は、Googleの様々な研究分野を取り上げるシリーズの第7部です。このシリーズの他の記事は第1部「2022年のGoogleのAI研究の成果と今後の展望~言語・視覚・生成モデル編~」からご覧いただけます)
科学者になるには、信じられないほどエキサイティングな時代です。機械学習(ML:Machine Learning)と量子コンピュータの驚くべき進歩により、私たちは好奇心に基づいて行動し、新しい方法で協力し、画期的な科学的発見に向けて進歩を根本的に加速させることができる、強力な新しいツールを手に入れました。
8年前にGoogle Researchに入社して以来、私は、最先端のコンピューティングを応用して応用科学の可能性の限界を押し広げることに魅了された才能ある研究者のコミュニティの一員であるという特権を与えられてきました。私たちのチームは、物理科学と自然科学にまたがるトピックを探求しています。本投稿では、例えば、世界のタンパク質やゲノム情報を整理して人々の生活に役立てたり、量子コンピュータを使って宇宙の本質の理解を深めたりと、生物学と物理学の分野で私たちが最近成し遂げたインパクトのある進歩に焦点を当てたいと思います。私たちは、このような仕事の大きな可能性に刺激を受けています。
機械学習を使って生物学の謎を解き明かす
私たちの研究者の多くは、脳の神秘からタンパク質の可能性、そして生命をコード化したゲノムに至るまで、生物学の並外れた複雑性に魅了されています。私たちは、コネクトミクス、タンパク質の機能予測、ゲノミクスの分野で重要な課題に取り組み、私たちのイノベーションをより多くの科学コミュニティにアクセスし、役立ててもらうために、世界中の他の主要機関の科学者とともに活動しています。
神経生物学(Neurobiology)
Googleが開発したML手法のエキサイティングな応用例として、ゼブラフィッシュ(zebrafish)の脳内の神経細胞経路を情報がどのように伝わるかを調べ、ゼブラフィッシュが群れなどの社会行動をとる仕組みを解明することができました。マックスプランク生物学的知性研究所の研究者と共同で、3D電子顕微鏡で撮影したゼブラフィッシュの脳の一部を計算して再構成することができました。これは、イメージングと計算パイプラインを使用して小さな脳の神経回路をマップ化する上で非常に大きな進歩であり、コネクトミクス分野への私達の長年の貢献がさらに前進したことになります。
ゼブラフィッシュの幼生脳の神経回路の再構築(マックスプランク生物学的知性研究所提供)
この研究に必要な技術的進歩は、神経科学以外でも応用されるでしょう。例えば、このような大規模なコネクトミクスデータセットを扱うことの難しさに対処するために、私たちは、n次元データの保存と操作のために設計されたオープンソースのC++およびPythonソフトウェアライブラリであるTensorStoreを開発し公開しました。大規模データセットの保存のために、他の分野でどのように使われるかを楽しみにしています。
また、人間の言語処理と自己回帰型深層言語モデル(DLM:Deep Language Models)を比較することで、人間の脳がどのように言語のような驚くべき能力を発揮しているのかを明らかにするために、MLを使用しています。
プリンストン大学とニューヨーク大学グロスマン医学部の同僚との共同研究であるこの研究では、参加者は30分のポッドキャストを聴きながら、脳活動を皮質電位計で記録しました。
この記録は、人間の脳とDLMが言語処理用の計算原理を共有していることを示唆しました。連続的に次単語を予測する事、文脈のembeddingsへの依存、単語の一致時に計測される驚きの計算などでです。(人間の脳がその単語にどれだけ驚いているかを測定し、その驚き信号とDLMによる単語の予測精度を相関させることができます)
これらの結果は、人間の脳における言語処理について新たな洞察をもたらし、DLMを用いることで、言語の神経基盤に関する貴重な洞察を明らかにできることを示唆しています。
3.2022年のGoogleのAI研究の成果と今後の展望~自然科学編~(1/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Google Research, 2022 & beyond: Natural sciences
2)www.nature.com
Shared computational principles for language processing in humans and deep language models
Visual recognition of social signals by a tectothalamic neural circuit