1.ブレークイーブン・フュージョン実現への新たな一歩(1/2)まとめ
・核融合反応維持に必要なエネルギーよりも多くを取り出す事をブレイクイーブンと言う
・ブレイクイーブン(損益分岐点)を超えるシステムは炭素排出量ゼロの電力を供給可能
・機械学習による最適化で従来の原子炉に比べて最大3倍のプラズマ寿命を達成できた
2.ブレークイーブン・フュージョンとは?
以下、ai.googleblog.comより「Another Step Towards Breakeven Fusion」の意訳です。元記事の投稿は2021年11月5日、Ted Baltzさんによる投稿です。
未読でしたら先に、謝辞に出て来るJohn Plattさんへのインタビューである以下の記事を読む事をオススメします。直近に閉幕したCOP26の1.5度目標なども一気に身近に感じられるようになると思います。
気候変動に対してAIは何が出来るのか?(1/4)
気候変動に対してAIは何が出来るのか?(2/4)
気候変動に対してAIは何が出来るのか?(3/4)
気候変動に対してAIは何が出来るのか?(4/4)
気候変動に対してAIは何が出来るのか?(5/4)
アイキャッチ画像のクレジットはPhoto by Selvan B on Unsplash
70年以上も前から、プラズマ物理学者たちは、核融合反応の開始と維持に必要なエネルギーよりも多くのエネルギーを核融合反応で放出できる、「損益分岐点(breakeven:ブレイクイーブン)」を超える事ができる制御されたブレイクイーブンな核融合を夢見てきました。
しかし、そのためには、数千万度のプラズマを生成しなければならず、そのプラズマを閉じ込め、維持するためには、非常に複雑で精巧なシステムが必要となります。更に、プラズマの生成と維持には、核融合反応で放出されるエネルギーを上回る大量のエネルギーが必要となります。
こういった困難にも関わらず、もし「損益分岐点」を超えるシステムが実現できれば、炭素排出量ゼロの電力(zero-carbon electricity)を十分に供給することができます。その潜在的な影響力のために、ITERやNIF(National Ignition Facility)などの政府系研究所や、いくつかの民間企業が関心を寄せています。
本日、TAE Technologies社との共同研究によって最近発表された2つの論文を紹介し、この分野におけるエキサイティングな進歩を示します。Nuclear Fusion誌に掲載された「Overview of C-2W: High-Temperature, Steady-State Beam-Driven Field-Reverseed Configuration Plasma」では、TAE社が実施した実験プログラムについて説明しています。
このプログラムでは、機械学習による最適化で私達が改良したOptometrist Algorithmを活用しています。この貢献もあって、現在の最先端の原子炉では、従来の原子炉に比べて最大3倍のプラズマ寿命を達成することができました。
Physics of Plasmas誌に掲載された「Multi-instrument Bayesian reconstruction of plasma shape evolution in the C-2W experiment」では、プラズマの間接的な計測値を分析して、その特性を詳細に再構築するために開発された新しい手法について詳述しています。この研究により、プラズマの不安定性がどのように発生するかをよりよく理解し、実際にこれらの摂動をどのように軽減できるかを理解することができました。
次世代核融合装置の最適化
C-2W Normanは(TAEの共同設立者である故Norman Rostokerー教授にちなんで命名)は、2017年に紹介したC-2Uマシンをほぼ完全に再構築したものです。このアップデート版では、TAEチームは新しい圧力容器、新しい電源、新しい真空システムを統合し、その他の大幅なアップグレードを行いました。
Normanは、1000以上の機械制御パラメータを持つ、信じられないほど複雑な機械であり、同様に、プラズマ内の条件だけでも1000以上の測定値を含む膨大な量のデータを1回の実行ごとに取得します。
また、各プラズマ実験の測定値は非常に豊富ですが、「良さ」を示す単純な指標はありません。さらに、8分に1回しか実験ができないため、性能向上のための反復作業を迅速に行うこともできません。これらの理由から、システムのチューニングは非常に難しく、システムを操作するプラズマ物理学者の熟練した勘に頼っています。新しい原子炉の性能を最適化するためには、非常に複雑なシステムを扱うことができると同時に、実験で得られた膨大なデータに応じて制御パラメータを迅速にチューニングできる制御システムが必要でした。
そのために、C-2Uシステム用に開発した「検眼アルゴリズム(Optometrist Algorithm)」をさらに改良し、オペレーターの専門知識を活用するようにしました。
このアルゴリズムでは、物理学者が実験結果を比較し、その実験が現在の基準となる実験よりも、自分の判断で現在の実験の目標をよりよく達成しているかどうかを判断します。(例:一定の温度でプラズマサイズの拡大を達成した、温度を上げたなど)
このようにして基準を更新することで、機械の性能は時間とともに向上していきます。しかし、改善の尺度がすぐにはわからない場合もあるため、このプロセスではオペレーターの直感を考慮することが重要です。例えば、プラズマの密度が高く、温度が少し低い実験でも、その後の実験での改善につながるため、状況によっては「より良い」と判断することもあります。私たちはさらにアルゴリズムを改良し、専門家の二値的な判断にロジスティック回帰を当てはめて試行実験を導くことで、古典的な探索-活用(exploration-exploitation)のトレードオフを実現しました。
検眼アルゴリズムをプラズマを形成する磁場コイルに適用したところ、長寿命プラズマの一貫した開始条件となる新しいタイミングシーケンスを発見し、最初に適用したときのプラズマ寿命をほぼ3倍にすることができました。これは、2015年にC-2Uマシンで初めて見られた正味のプラズマ加熱体制よりも著しく改善されていました。
Normanリアクターのプラズマ形成部。外側のコイルは実験の間だけ動作し、内側のコイルは10マイクロ秒以下でプラズマを加速します(写真提供:Erik Lucero)
3.ブレークイーブン・フュージョン実現への新たな一歩(1/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Another Step Towards Breakeven Fusion
2)iopscience.iop.org
Overview of C-2W: high temperature, steady-state beam-driven field-reversed configuration plasmas
3)aip.scitation.org
Multi-instrument Bayesian reconstruction of plasma shape evolution in the C-2W experiment