1.H01:人間の脳の一部をブラウザで閲覧可能な形式に再構築(1/2)まとめ
・昨年の蝿の脳の視覚化に使った技術を応用して人間の脳の一部の視覚化に成功
・脳組織の小さなサンプルだがレンダリングしてH01データセットとして公開
・H01は全ての層にまたがる人間の皮質のシナプス結合の初の大規模視覚化
2.蝿の脳から人間の脳へ
以下、ai.googleblog.comより「A Browsable Petascale Reconstruction of the Human Cortex」の意訳です。元記事の投稿は2021年6月1日、Tim BlakelyさんとMichał Januszewskiさんによる投稿です。
アイキャッチ画像のクレジットはPhoto by Robina Weermeijer on Unsplash
2020年1月、私達ちはハエの「半脳コネクトーム(hemibrain connectome)」をリリースしました。これは、キイロショウジョウバエの脳の約半分の形態学的構造とシナプス結合性を提供するオンライン データベースです。
このデータベースとそれをサポートする視覚化は、ハエの脳を使って神経回路を研究し、理解する手法を再定義しました。ショウジョウバエの脳は、最新のマッピング技術を使用して比較的完全なマップを取得できるほど小さいですが、得られた洞察は、神経科学で最も興味深い対象である人間の脳を理解する上では、せいぜい部分的な情報に過ぎません。
本日、ハーバード大学のLichtman研究室と協力して、人間の脳組織の小さなサンプルを1.4ペタバイトサイズでレンダリングでした「H01」データセットと、付属の論文「A connectomic study of a petascale fragment of human cerebral cortex」を公開します。
H01サンプルは、連続断面電子顕微鏡によって4nmの解像度で画像化され、自動計算技術によって再構成および注釈が付けられ、人間の皮質の構造に関する予備的な洞察に基づいて分析されました。
データセットは、およそ1立方ミリメートルの脳組織をカバーする画像データで構成されています。数万の再構築されたニューロン、数百万のニューロン断片、1億3,000 万の注釈付きシナプス、104 個の校正済みセル、および多くの追加の細胞内注釈と構造が含まれており、これらは全てブラウザから簡単にアクセスできます。
H01は、これまでのところ、あらゆる種において、このレベルで詳細に画像化および再構築された脳組織として最大のサンプルです。皮質の全ての層にまたがる複数の細胞型を含めた、ヒト皮質のシナプス結合性に関する最初の大規模研究です。
このプロジェクトの主な目標は、人間の脳を研究するための新しいリソースを作成し、基礎となるコネクトミクス技術を改善および拡張することです。
人間の新皮質をペタバイトサイズの地図として再構築
左: データセット内の小さな一部分の概要
右: データセット内の 5000 個のニューロンと興奮性(緑)および抑制性(赤)の接続のサブグラフ。完全なグラフ(コネクトーム)は、視覚化するには密度が高すぎるため一部分のみを表示しています。
人間の皮質とは何でしょうか?
大脳皮質は、最も最近に進化した脊椎動物に見られる脳の薄い表面層であり、さまざまな哺乳類の間でサイズのばらつきが最も大きい(人間は特に大きい皮質を持っています)です。
大脳皮質の各部分は6層であり、各層には異なる種類の神経細胞(例えば、有棘星状細胞)があります。大脳皮質は、思考、記憶、計画、知覚、言語、注意などの高次の認知機能において重要な役割を果たしています。
この非常に複雑な組織はマクロ的な観点からの理解にはいくらか進歩がありましたが、個々の神経細胞のレベルでの組織化とそれらの相互接続シナプスはほとんど知られていません。
人間の脳のコネクトミクス: 外科生検を3Dデータベースに
個々のシナプスが確認できるレベルの高解像度で脳の構造をマッピングするには、生化学的に安定した(固定化された)組織を画像化できる高解像度の顕微鏡技術が必要です。
私達は、ボストンのマサチューセッツ総合病院(MGH:Massachusetts General Hospital)の脳外科医と協力しました。MGHは、てんかん発作症状が表れている脳の深部の部位にアクセスするために、てんかんを治す手術を行うときに、正常な人間の大脳皮質の一部を切除することがあります。
患者は、通常は破棄されるこの組織を匿名で、リヒトマン研究所の私達の同僚に寄付してくれました。ハーバード大学の研究者たちは、顕微鏡資料を超極薄に細断する装置(ultra-microtome)を使用して、組織を約5300の30ナノメートルのパーツに切断しました。
彼らは、これらのパーツをシリコン ウエハースにマウントし、カスタマイズされた61ビーム平行走査型電子顕微鏡で4nmの解像度で脳組織を画像化し、迅速な画像取得を実現しました。
約5300の物理的脳組織を画像化すると、2億2500万の個別の2D画像が生成されました。私達のチームは、このデータを計算して繋ぎ合わせて調整、単一の三次元構造を作成しました。
データの品質は概して優れていましたが、2次元画像を三次元構造にする調整パイプラインは多くの課題にしっかりと対処する必要がありました。この課題には画像に写り込む人工的な効果、欠落しているセクション、顕微鏡パラメータの変化、組織の物理的な伸張と圧縮が含まれます。
調整が完了すると、マルチスケール フロードフィル ネットワーク パイプラインが(何千もの Google Cloud TPU を使用して)適用され、組織内の個々の細胞の 3D セグメンテーションが生成されました。
追加の機械学習パイプラインを適用して、1億3000万のシナプスを識別して特徴付け、各三次元の断片を様々な「サブコンパートメント(軸索、樹状突起、細胞体など)」 に分類し、ミエリンや繊毛などの関心のある他の構造を識別します。
自動再構築の結果は不完全であったため、データ内の約100セルを「校正」するために手作業で修正を行いました。時間の経過とともに、追加の手動作業と自動化のさらなる進歩を通じて、この検証済みセットにさらにセルを追加する予定です。
1.4ペタバイトの画像で撮影された人間の脳組織の約1立方ミリメートル
3.H01:人間の脳の一部をブラウザで閲覧可能な形式に再構築(1/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
A Browsable Petascale Reconstruction of the Human Cortex
2)www.biorxiv.org
A connectomic study of a petascale fragment of human cerebral cortex
Denoising-based Image Compression for Connectomics
3)h01-release.storage.googleapis.com
A Browsable Petascale Reconstruction of the Human Cortex
4)h01-release-dot-neuroglancer-demo.appspot.com
neuroglancer
Mega(メガ、\(1000^2\)、百万、million)
Giga(ギガ、\(1000^3\)、十億、billion)
Tera(テラ、\(1000^4\)、一兆、trillion)
Peta(ペタ、\(1000^5\)、千兆、quadrillion)
Exa(エクサ、\(1000^6\)、百京、quintillion)
です。後半でマウスの脳に規模拡大する際にはExa規模にスケールアップする必要があるかもしれないという話が出てきます