Lydian Accelerator:一人一人の症例に合わせた遺伝的治療を推進する試み

ヘルスケア

1.Lydian Accelerator:一人一人の症例に合わせた遺伝的治療を推進する試みまとめ

・遺伝子異常は個々の異常部分や症例が異なっていても根本原因は同じで世界中に沢山の患者がいる
・現在はASOと言う画期的な治療があり、それを用いれば単遺伝性疾患の根本を治療する事が可能な時代
・ASO治療は非常に高額だが事例をオープンソース化していけばコストを大きく削減できる可能性がある

2.遺伝子治療をオープンソース化する試みとは?

以下、medium.comより「Saving Lydia: Why I’m Open Sourcing My Baby To Save Her and Millions of Others」の意訳です。元記事は2019年7月25日、Rohan Sethさんによる投稿です。

Jenと私は二人とも異なる国で育ち、コンピュータサイエンスを学び、サンフランシスコに引っ越して私たちの住処としました。半年前に、私たちは私たちの最初の子供、Lydiaを授かりました。

Lydiaは生まれつ遺伝的変異を持ち、それが彼女を重度の精神的および身体的に困難を与える状況にしています。彼女は起きたり、這ったり、歩いたり、話したりする事はありません。私達は彼女の病気はあまりにも珍しく、治療法は存在しないと言われましたが、どちらも真実ではありません。Lydiaのような重度の突然変異を持つ何百万人もの子供たちがいます – そしてこれらの突然変異を黙らせる技術はすでに存在しています。

Lydia Niru Seth
Lydiaは予定日にふっくらした頬を持って生まれました。私達は彼女を彼女の祖母Niruにちなんで名付けました。彼女の祖母は常に喜びと笑いにあふれていました、そしてそれはLydiaが私達にもたらしたものです。

しかし、私達の喜びは長くは続きませんでした。Lydiaは出生後すぐに発作を起こし始めました。

彼女は集中治療室で次の3週間を過ごし、生きるために戦い、数え切れないほどのテストを受けました。最後に、遺伝子検査の結果が出ました。重要な遺伝子の小さな突然変異。彼女の脳機能に影響を及ぼし、重度の困難や苦しみを引き起こした原因です。

この絶望的な診断に直面している親として、私達はできることなら何でもすることにしました。過去6ヶ月間に、私たちは何百もの科学論文を読み、世界トップクラスの科学者との関係を築き、外国の医療記録を翻訳し、家庭で薬を自己配合し、そして150万ドル以上を集めて非営利団体にしました。

私達は今、Lydiaにはまだチャンスがあることを知っています。私達は数ヶ月で彼女を治療することができます。伝統的な製薬モデルは、Lydiaや彼女のような何百万人もの人々を助けるためのものではありません。 その理由は…

問題とは – ロングテール
私達のDNAには60億の遺伝的コードがあります。私達全員がこのコードに自然なタイプミス、つまり突然変異を持っています。Lydiaのようないくつかのタイプミスは深刻な病気を引き起こします。 総計すると、アメリカには脳に影響を与えるタイプミスに苦しんでいる700万人の人々がいます。

患者の大多数は子供です。これには既に亡くなった何百万という人たちは含まれていません。出生前の遺伝子検査はこれらを検出しません

タイプミスは何十億もの文字のうちの1つであるため、全く同一のミスを持つ患者は一握りしかいません。Lydiaと同じタイプの症例は、世界に他に2例しかありません。1例はギリシャ、もう1例はイギリスです。 遺伝子KCNQ2の683番目で、AがGとタイプミスされているのです。

これは古典的なロングテール問題です – 突然変異は症状毎に数えれば個々の患者は多くはありませんが、まとめると大人数になります。これらを治療するための従来の製薬会社のアプローチは壊れています – 彼らは一般的な数の多いタイプミスを探して、長い間試行された試験でそれらを修正します。これらのアプローチはわずかな影響しか与えません。

更に悪いことに、彼らは個々の突然変異を個々の症例として扱い、それぞれを珍しい症例としてラベル付けしました。これらの突然変異を持つ数百万人の大集団が存在するのに、これらの突然変異はどのように解釈すれば「稀なケース」となり得るのでしょうか。

稀なケースとしてラベル付けする事は間違っており、進歩を制限します。これらの症状は珍しくありません。これらは遺伝的問題であり、根本的な原因は同じです。これらのタイプミスを修正するには、体系的でプラットフォーム主導のアプローチが必要です。スペルチェックの仕組みが必要なのです。

ソリューション – N-of-1プラットフォーム
単遺伝性疾患は、私たちが正確な原因を厳密に突き止めることができるので、癌や心血管疾患のような圧倒的多数の病とは異なります。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO:Antisense Oligonucleotides)と呼ばれる画期的な技術があり、それを用いて突然変異の根本を黙らせることができるのです。

2016年に最初に承認された薬以来、ASOは脊髄性筋萎縮症やバッテン病のような重度の病気をうまく止めました。タンパク質(例えれば、ハードウェア)を標的とする伝統的な薬とは異なり、ASOはRNAレベル(例えれば、プログラムのソースコード)を標的とします。

これらは再現性があり、カスタマイズは非常に簡単です。化学的性質や投与量を変えずに数文字のコードを修正することで、あらゆる突然変異をターゲットにするようにASOを設計できます。

私達は子供達がパーソナライズされたASOで治療されることができる時代に生きています。 – 「N of 1治療(一名を対象にした医療処置)」。

昨年、ボストン小児病院のTimothy Yu博士は、最初のN-of-1 ASOを作成しました。これは長い臨床試験プロセスをスキップしています。

製薬会社は現在、これらの個々人を対象とした治療からお金を稼ぐようなビジネスモデルを持っていません。そこには宣伝により大ヒットさせる事ができる薬はありません、保護される知的財産権もありません。私達はこのギャップを埋め、Lydiaと他の人たちのためにこの種の治療の推進を加速する非営利プロジェクトLydian Acceleratorを始めました。

私達が現在経験していることを、いかなる両親も経験すべきではありません。コンピュータ科学者として、私たちはオープンプラットフォームを信じています。最初のいくつかのN of 1治療例からプロセス、ツール、およびデータを公開し、オープンソース化することによって、私達はこの手法に関心を持つあらゆる機関に力を与えることができます。

それから、有効性と安全性に関するデータを共有データベースとして作り上げる事ができます。N-of-1治療を実行している人は誰でも、この情報保管庫に結果をフィードバックして貢献する限り、この保管庫を利用できるようになるべきです。

より多くのデータがあれば、現在かかっているコストの大部分を占める研究室の作業を削減または排除するためのアルゴリズムを開発できる可能性があります。それぞれの治療の結果があれば、それを参照して次の治療の時間と費用を減らすことができます。

私達は旅の初期段階にありますが、野心的で毎日もっと多くのことを学んでいます。私達は、ボストンチルドレンズ、スタンフォード、ノースウェスタンなどワールドクラスのチームと協力しています。

今後数ヶ月の間に、私達は共同作業者に、LydiaのN-of-1治療からの全て – プロセス、コスト、契約、プロトコル、化学分析、細胞株とデータ – をオープンソース化を依頼する事から始めます。同時にデータをより速く収集するために、後続のN-of-1治療の資金を調達します。

創設ドナーとしてご参加ください
この研究は現在、非常に沢山の費用がかかります。来年初めまでにLydiaの治療を開始したいと考えています。治療は子供の人生の早い段階で行う事が最も効果的であり、毎日が貴重です。私達が私達の娘を救い、他の子供たちのためにこの道を切り開くのを手伝ってください。

私達は素晴らしいテクノロジーコミュニティの一員であり、既に目標の半分以上を達成できている事は幸運です。このコミュニティの支持者とリディアの物語を共有し、寄付する事を検討してください。

あなたが財団またはDAF(Donor Advised Fund:非営利の中間組織にいったん寄付して、その組織経由で寄付する仕組み)を通してより大きな助成金を寄付することができるならば、私達に連絡してください。私達はあなたと1:1で会い、あなたにもっと伝えたいと思います。支援は税金を控除することができ、ほとんどの大規模事業者に適しています。

ありがとうございます!
— Rohan and Jen

P.S 私達の個人的な好みはソーシャルメディアでも個人的な情報を非公開に保つ事ですが、Lydiaの物語は他人を助けることができるので公開しています。私達は今後数ヶ月間の旅を共有します。Lydiaはオープンソースな赤ちゃんになるでしょう。最新の情報を入手するには、メーリングリストに登録してください。

アイキャッチ画像のクレジット:Photo by Valeria Zoncoll on Unsplash

訳注:自分は冷たい人間なのかもしれませんが、正直なところ、Lydiaちゃんだけのお話であれば、無理のない範囲で寄付して「頑張ってくださいね」で自分の中で終わっていたと思うのです。しかし、オープンソースの名の下で支援要請されると、自分でも意外な事に心の奥底から可能な限り応えねばならないと言う抗いがたい気持ちが沸き起こってきて、自分の中では少し無理目のスパルタン約一回分(交通費含む)寄付しました。

従来の製薬会社の「広く沢山の人に(副作用がないレベルの)薄い効果がある薬を売る」モデルでは手間がかかりすぎて対応できない個別治療は、人工知能の活躍が大きく期待される分野で、実際、Lydian Acceleratorのようなプロジェクトが先導しなければ実現できない事なのかもしれません。何らかの形で自分が将来直接的または間接的にLydian Acceleratorの成果にお世話になる可能性はありますからね。

というのは後付けで、これはもう単に、長い間オープンソースコミュニティから受け続けた恩を少しでも返したいと言う気持ちが表面化しているのだろうな、と思います。

3.Lydian Accelerator:一人一人の症例に合わせた遺伝的治療を推進する試み関連リンク

1)donate.savelydia.com
Donate — Save Lydia

2)medium.com
Saving Lydia: Why I’m Open Sourcing My Baby To Save Her and Millions of Others

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