1.ReCirq:量子ハードウェアを使って化学反応シミュレーションを試みる(2/2)まとめ
・量子計算エラーは量子コンピュータの全ハードウェアの様々な場所で発生する
・正確に制御するには2,000を超える制御パラメーターを微調整する必要がある
・制御問題を数千のノードを持つグラフにマッピングする事で効率的に解決した
2.量子計算時のエラーの軽減
以下、ai.googleblog.comより「Scaling Up Fundamental Quantum Chemistry Simulations on Quantum Hardware」の意訳です。元記事の投稿は2020年8月27日、Nicholas RubinさんとCharles Neillさんによる投稿です。
アイキャッチ画像はWikipediaよりSycamore MapleでクレジットはWillowさんの「Sycamore Maple (Acer pseudoplatanus) in the Schlosspark Wilhelmshöhe, Kassel, Hesse, Germany」
Sycamoreプロセッサを使って高精度を実現
本実験は、量子超越性を実証するために最近使用されたSycamoreプロセッサで実行されました。今回の私達の実験に必要な量子ビット数は少ないのですが、化学結合を計算するには更に高い量子ゲート忠実度が必要でした。これは、エラーを最適化及び増幅し、診断および修正できる対象を絞った新しい較正手法の開発につながりました。
Sycamoreプロセッサの10量子ビットを使ってシミュレートされたHartree-Fockモデルによる分子構造のエネルギー予測
量子計算のエラーは、量子コンピュータが使用している全ハードウェアの様々な場所から発生する可能性があります。Sycamoreは全54量子ビットで、140以上の個別に調整可能な構成要素で構成され、それぞれが高速のアナログ電気パルスで制御されます。デバイス全体を正確に制御するには、2,000を超える制御パラメーターを微調整する必要があり、これらのパラメーターの小さな誤差でさえ、積もり重なって大きな誤差になる可能性があります。
デバイスを正確に制御するために自動フレームワークを使用し、制御問題を数千のノードを持つグラフにマッピングします。それぞれのノードが、1つの未知のパラメータを決定するための物理実験を表しています。
このグラフを横断的に処理する事で、デバイスに関する基本的な事前知識を元に決定した設定を、量子プロセッサに高度に最適化した設定に移行でき、更にこれは1日未満で作業を完了する事ができます。最終的には、これらの技術とアルゴリズムによるエラー軽減により、エラーを大幅に削減できました。
左:各原子間の結合距離が増加する際の水素原子の線形鎖のエネルギー。
実線は、従来のコンピュータを使用したハートリーフォックシミュレーションで、点は私達の量子プロセッサであるSycamoreで計算された結果です。
右:Sycamoreで計算された各ポイントの2つの精度基準(不忠実度と平均絶対誤差)。
「Raw」は、Sycamoreからのデータですがエラーが軽減されていません。
「+PS」は、電子数を補正する一種のエラー軽減をしたデータです。
「+Purification」は、様々な状態を適宜修正してエラー軽減をしたデータです。
「+VQE」は、全てのエラー軽減と回路パラメーターの変動緩和の組み合わせです。H8、H10、およびH12の実験では、エラーを軽減すると同様にパフォーマンスの向上が見られます。
進歩への道筋
この実験が、量子プロセッサで化学計算を実行する方法の青写真として、また、物理シミュレーションを促進するための出発点として役立つことを願っています。
刺激的な展望の1つは、この実験で使用された量子回路を少し変更し、効率的にシミュレートできなくする方法が知られていることです。これは、量子アルゴリズムとアプリケーションを新しく改良する際の方向性を決定します。
本実験の結果を利用して、より広い研究コミュニティがこの手法を調査できることを願っています。これらの実験を実行するには、githubでコードを見つけることができます。
3.ReCirq:量子ハードウェアを使って化学反応シミュレーションを試みる(2/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Scaling Up Fundamental Quantum Chemistry Simulations on Quantum Hardware
2)github.com
quantumlib / ReCirq
3)arxiv.org
Hartree-Fock on a superconducting qubit quantum computer
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