1.MetNet-2:12時間まで先の天候を1km単位で予測するディープラーニングモデル(2/2)まとめ
・天気予報はスーパーコンピュータを駆使した伝統的な物理学ベースの手法で行われる
・深層学習で数時間先の近い未来の天気を詳細に予測するナウスティングが期待されている
・MetNet-2は前モデルの性能を大幅に向上し物理ベースモデルを性能で凌駕している
2.MetNet-2の気象予測性能
以下、ai.googleblog.comより「MetNet-2: Deep Learning for 12-Hour Precipitation Forecasting」の意訳です。元記事の投稿は2021年11月15日、Nal KalchbrennerさんとLasse Espeholtさんによる投稿です。
アイキャッチ画像のクレジットはPhoto by NASA on Unsplash
MetNet-2が12時間先の気象予報を行うために克服しなければならない主な課題の1つは、入力画像として十分な量の空間的情報を取り込むことです。
予測時間が1時間増えるごとに、64km分の情報を全方向から入力します。これにより、入力情報のサイズは20,482km2となり、前モデルであるMetNetで使用されているサイズの4倍になります。
MetNet-2では、このような大規模な情報を処理するために、モデルをCloud TPU v3-128の128コアに分散させるモデル並列処理を採用しています。入力情報の大きさを考慮して、MetNet-2では、MetNetのAttentionレイヤーを、計算効率の高い畳み込みレイヤーに置き換えています。
しかし、標準的な畳み込みレイヤーの受容野(receptive fields)は局所的であるため、巨大な空間情報を大局的に捉えることができない可能性があります。そこで、MetNet-2は、レイヤー毎にサイズが2倍になる拡張された受容野を使用して、離れた場所にある入力の点同士を接続しています。
MetNet-2の予報エリアと入力される空間の範囲
結果
MetNet-2の予測は確率的であるため、このモデルの出力は、同じような確率的アンサンブルモデルや後処理モデル(post-processing models)の出力と自然に比較できます。
HREFは、米国の降水確率を予測する最新のアンサンブルモデルの1つで、1日2回、5つの異なるモデルから10個の予測値を集約しています。
予測の評価には、検証済み観測値に対するモデルの予測の確率的誤差の大きさを表す「連続順位付き確率スコア(CRPS:Continuous Ranked Probability Score)」などの確立された指標を用いています。
MetNet-2は物理的な計算を行っていないにもかかわらず、降水量が少ない場合も多い場合も、最大で12時間先までの未来でHREFを上回るスコアを出しました。
アメリカ大陸から無作為に選択した多数のテスト範囲を対象としたMetNet-2とHREFの連続順位付き確率スコア(CRPS:低いほど良い)
気象予報の具体例
次の図は、MetNet-2による予測の一部を、物理学ベースのアンサンブルモデルであるHREFおよび検証済み観測値であるMRMSと比較したものです。
2019年1月3日の太平洋岸北西部の累積降水量が1mm/hrとなる地域の確率マップです。
地図は経過時間が1時間後から12時間後までの各時間毎に示されています。
左:検証済みデータ、出典:MRMS。
中央:MetNet-2による気象予測を使った確率マップ
右:HREFによる気象予測を使った確率マップ
2020年3月30日にコロラド州デンバー上空の0.2mm/hr降水量の比較
左:検証済みデータ、出典はMRMS
中央:MetNet-2で予測された降水確率マップ
右:HREFで予測された降水確率マップ
MetNet-2はHREFよりも早い時期に嵐の発生(convective initiation)と嵐の開始地点を予測することができています。HREFは嵐の発生を見逃していますが、成長段階をよく捉えています。
2020年8月4日に米国北東部沿岸で発生した異常気象「ハリケーン・イザイアス」に由来する2mm/hrの降水量の比較
左:検証済みデータ、出典はMRMS
中央:MetNet-2で予測された降水確率マップ
右:HREFで予測された降水確率マップ
MetNet-2が学習した気象情報は何か?
MetNet-2は手動で導き出された物理方程式を使用していないため、その予測性能は自然な疑問を引き起こします。
MetNet-2は学習に使ったデータから、天気に関するどのような物理的関係を学習しているのでしょうか?
高度な解釈ツールを用いて、様々な入力特性がMetNet-2のパフォーマンスに与える影響を、異なる予測タイムラインでさらに追跡しました。
最も驚くべき発見は、MetNet-2が、大規模な気象現象の効果的な近似として使用されている準地衡理論(Quasi-Geostrophic Theory)で記述されている物理学をエミュレートしているように見えることです。
準地衡理論は、大規模な気象現象の近似式として用いられていますが、MetNet-2は、高気圧や低気圧といった典型的な規模(synoptic scale)単位で大気の力の変化を捉え、準地衡理論の重要な考え方である降水予測における好ましい条件を算出する事ができていました。
結論
MetNet-2は、気象現象の物理方程式を手作業でプログラミングするのではなく、観測値から対象とする気象現象を直接学習し、低精度のハードウェアで並列的に予測を行うという、天気予報の新しいモデリングパラダイムを実現するための一歩となります。
しかし、この目標を完全に達成するためには、(物理モデルで処理された初期状態から開始するのではなく)大気に関するより多くの生データを直接取り込むこと、気象現象の種類を増やすこと、予測可能期間を日単位や週単位に伸ばすこと、地理的範囲を米国以外にも広げること、など多くの課題が残っています。
謝辞
Shreya Agrawal, Casper Sønderby, Manoj Kumar, Jonathan Heek, Carla Bromberg, Cenk Gazen, Jason Hickey, Aaron Bell, Marcin Andrychowicz, Amy McGovern, Rob Carver, Stephan Hoyer, Zack Ontiveros, Lak Lakshmanan, David McPeek, Ian Gonzalez, Claudio Martella, Samier Merchant, Fred Zyda, Daniel Furrer そして Tom Small.
3.MetNet-2:12時間まで先の天候を1km単位で予測するディープラーニングモデル(2/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
MetNet-2: Deep Learning for 12-Hour Precipitation Forecasting
2)arxiv.org
Skillful Twelve Hour Precipitation Forecasts using Large Context Neural Networks