1.MetNet:数時間先の降水量を予測するニューラル気象モデル(1/2)まとめ
・現在の天気予報は物理法則に基づいて気象を物理モデル化し、それを使って予報している
・この物理モデルは計算が非常に大変だが、計算を簡易化すると大きな誤差が出てしまう事がある
・ニューラルネットワークを使って気象データのパターンを発見して予測しようとする手法がMetNet
2.MetNetとは?
以下、ai.googleblog.comより「A Neural Weather Model for Eight-Hour Precipitation Forecasting」の意訳です。元記事の投稿は2020年3月25日、Nal KalchbrennerさんとCasper Sønderbyさんによる投稿です。急激に変化する天気の様相が良くわかるアイキャッチ画像のクレジットはPhoto by Johannes Plenio on Unsplash
数分先から数週間先までの天気を高精度で予測することは、現代社会の多くの側面に幅広い影響を与える可能性がある基本的な科学的課題です。
多くの気象機関が採用している現在の予測は、天気に大きな影響を与える「大気の物理モデル(physical models of the atmosphere)」に基づいています。
この物理モデルは過去数十年にわたって大幅に改善されてきてはいますが、本質的にこれを計算するために必要になる諸条件によって制約を受けます。そして、物理モデルを計算しやすくするために、どのように物理法則を近似するかによって予測結果に大きな違いがでます。
これらの制約のいくつかを克服することができる気象予測の代替アプローチは、ディープニューラルネットワーク(DNN)の使用です。DNNは、明確な物理法則を数式として組み込む代わりに、GPUやTPUなどの強力な専用ハードウェアでの並列計算を使用して、気象データのパターンを発見し、入力気象データから数時間後の気象データを予測する複雑な変換ルールを学習します。
降水確率をニューラルネットワークを使ってナウキャスティング(訳注:nowcasting、数時間先の天気を予測する事)するこれまでの研究に基づいて、論文「MetNet: A Neural Weather Model for Precipitation Forecasting,」を発表します。これは、将来の降水量を、1km単位の解像度で、2分間隔で、最大8時間先まで、時系列で予測できるDNNです。MetNetは、NOAAが現在使用している最新の物理学ベースのモデルの7~8時間先の予測よりも優れており、予測に必要な計算時間も1時間ではなく数秒で米国の国土全体を予測できます。ネットワークへの入力は、人間によるラベル付けを必要とせず、レーダーステーションと衛星ネットワークから自動的に供給されます。
モデルの出力は確率分布です。不確実性を伴いますが、各地理的領域で最も可能性の高い降水確率を推測するために使用されます。次の図は、米国本土に関するネットワークが予測した例を示しています。
NOAAのMRMS(マルチレーダー/マルチセンサーシステム)で測定された実際の天気とMetNetモデルによる予測の比較
MetNetモデル(上)は、2分から480分先まで1mm/時間の降水が発生する確率を予測して表示しています。
MRMSデータ(下)は、同じ期間に少なくとも1mm/時間の降水量が発生したと推定される地域を示しています。
ニューラル気象モデル
MetNetは、大気の変化を捕捉する際に物理法則を参照していません。しかし、観測されたデータから直接気象を予測するために逆伝播による学習を行っています。このネットワークでは、MRMSで構成される地上のレーダーステーションから得られた降水量推定値と、NOAAの静止運用環境衛星システムから得られた大気中の雲のうごきを学習用データとして使用しています。どちらのデータソースも米国本土をカバーし、ネットワークで効率的に処理できる画像に近い形式で入力データを提供します。
モデルは、1km単位の解像度で米国全体をカバーする64km x 64kmの正方形ごとに実行されます。ただし、これらの予測領域に対応する入力データの実際の物理的範囲は、予測が行われる期間中も雲の動きを考慮に入れる必要があるため、はるかに大きくなります。
例えば、雲が時速60kmで移動すると仮定すると、最大8時間先の大気の時間的変化を捕えるために必要な情報は、全方向から60 x 8 = 480 kmの空間データが必要となります。
従って、このレベルの予測を行うためには、64km x 64kmを中央として、1024km x 1024kmのエリアからの情報が必要です。
衛星およびレーダー画像を含む入力データのサイズ(大きい、1024 x 1024kmの四角形)、そして出力される予測のサイズ(小さい、64km x 64kmの四角形)
フル解像度で1024km x 1024kmのエリアを処理するには大量のメモリが必要になるため、空間ダウンサンプラー(spatial downsampler)を使用します。空間ダウンサンプラーは、入力データ内の気象に関連するパターンを見つけて維持しつつ、入力データの空間次元を減らすことでメモリ消費を減らす事を可能にします。
次に、時間エンコーダー(連続する画像の処理に特化した畳み込みLSTMで実装)がダウンサンプリングされた入力データの時間軸に沿って適用され、過去90分間の入力データを15分間隔でエンコードした7つのスナップショットを作成します。
次に、時間エンコーダーの出力が空間アグリゲーター(spatial aggregator)に渡されます。空間アグリゲーターは、self-attentionを使用して、データ内の長期的な空間依存関係を効率的に補足します。そして、入力ターゲットの時点に基づいて空間状況を変化させ、64 km x 64 kmの出力を予測します。
このアーキテクチャの出力は、米国本土の1平方キロメートルあたりの降水量の確率を推定する離散確率分布です。
ニューラル気象モデル、MetNetのアーキテクチャ
入力衛星画像とレーダー画像は、最初に空間ダウンサンプラーを通過してメモリの消費を減らします。次に、90分の入力データを15分間隔で畳み込みLSTMに処理させます。次に、軸アテンションレイヤー(axial attention layers)を使用して、ネットワークに入力画像全体を表示させます。
3.MetNet:数時間先の降水量を予測するニューラル気象モデル(1/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
A Neural Weather Model for Eight-Hour Precipitation Forecasting
2)arxiv.org
MetNet: A Neural Weather Model for Precipitation Forecasting
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