TensorFlow Quantum:量子機械学習のためのオープンソースライブラリ(1/3)

モデル

1.TensorFlow Quantum:量子機械学習のためのオープンソースライブラリ(1/3)まとめ

・機械学習と量子コンピュータは大きく進歩したが量子コンピュータで実行できる量子機械学習は存在しない
・量子機械学習モデルの試作やシミュレーションを迅速に行うためのツールTensorFlow Quantum(TFQ)が公開
・TFQはCirqとTensorFlowを統合し、量子古典モデルの設計と実装のための高レベルの抽象化を提供

2.TensorFlow Quantumとは?

以下、ai.googleblog.comより「Announcing TensorFlow Quantum: An Open Source Library for Quantum Machine Learning」の意訳です。元記事の投稿は2020年3月9日、Alan HoさんとMasoud Mohseniさんによる投稿です。

久々の量子コンピューティングのお話で、量子コンピューティング研究と機械学習研究が重なり合う未来が見えてくるようなお話です。誤解を招きやすい以下の2つの用語に留意です。

量子コンピューティング領域で「classical(古典的)」とは、「Before 量子コンピューティング」の技術は全て「classical(古典的)」になるので、最新の機械学習技術であっても従来型のコンピュータで動かす事が前提の技術は全て「classical(古典的)」の修飾がつきます。

また、機械学習領域で「Quantize(量子化)」とは計算効率を向上させるために浮動小数点演算などをざっくり切り捨てて整数に近い形式で演算する事で、こちらは量子コンピューティングとはまるで関係ない用語です。

アイキャッチ画像のクレジットは、Wikipediaより量子電磁力学の分野の基礎研究でノーベル物理学賞を受賞した若き日のRichard Feynman

自然界は古典的な理論で扱えるものではありません。ちきしょうめ。もし、自然界のシミュレーションを行いたいのならば、量子力学を使った方が良いでしょう。- 物理学者 Richard Feynman

機械学習(ML)は、システムを正確にシミュレートするわけではありませんが、システムのモデルを学習し、システムの動作を予測する機能を備えています。

過去数年にわたり、古典的なMLモデルは困難な科学的問題への取り組みに有望であり、癌検出地震余震の予測、異常気象パターンの予測、新しい太陽系外惑星の検出など様々な分野で成功を収めた画像処理技術の進歩につながりました。

量子コンピューティングの開発における最近の進歩により、新しい量子MLモデルの開発は世界の難題に大きな影響を与え、医学、材料、センシング、通信の分野での技術革新につながる可能性があります。しかし、今日まで、量子データを処理し、現在利用可能な量子コンピューターで実行できる有用な量子MLモデルを発見するための研究ツールが不足しています。

本日、Waterloo大学、X、およびフォルクスワーゲン社と共同で、量子MLモデルのプロトタイピングを迅速に行うためのオープンソースライブラリであるTensorFlow Quantum(TFQ)のリリースを発表しました。

TFQは、量子コンピューティング研究コミュニティと機械学習研究コミュニティを結び付けて、自然または人工の量子システム(例えば50~100量子ビットのNISQプロセッサ)を制御およびモデル化するために必要なツールを提供します。

内部的には、TFQはCirqとTensorFlowを統合し、識別および生成の両方の量子古典モデルの設計と実装のための高レベルの抽象化を提供します。これらは、既存のTensorFlow APIと互換性のある量子コンピューティング操作と、高性能量子回路シミュレーターを提供することにより実現されます。

訳注:Cirqは、2018年8月に発表された量子コンピュータのシミュレーションが出来るPythonのフレームワークです。それを機械学習用のフレームワークであるTensorFlowと統合して、Cirqに慣れた量子研究者に機械学習を利用しやすくし、逆にTensorFlowに慣れた機械学習の実践者に量子コンピューティングに慣れ親しむ機会を提供すると言う事が今回のお話です。

量子機械学習(Quantum ML)モデルとは何ですか?
量子モデルには、データを量子力学的なやり方で表現および一般化する機能があります。ただし、量子モデルを理解するには、量子データ(Quantum data)とハイブリッド量子古典モデル(hybrid quantum-classical models)という2つの概念を理解する必要があります。

量子データは「量子重ね合わせ(Superposition)」と「量子もつれ(Entanglement)」を表現します。

訳注:量子コンピュータは良くコインに例えられて説明されるのですが、「量子重ね合わせ」は量子は裏と表の状態を同時に持つ事が出来るコインみたいなものって概念です。「量子もつれ」は量子Aが表だと量子Bは必ず裏になるような謎性質を持つペアが存在するって概念です。良くわからない?大丈夫です、冒頭のファインマンさんも「量子力学を理解している人は誰もいないと言っても問題ないと思います」等の量子力学の難解さに関する名言を沢山残しているので、そういうものだと丸呑みしましょう。

この2つの概念は、古典的なコンピュータでは指数関数的な量の計算リソースが必要となる可能性のある結合確率分布(joint probability distributions)につながります。

量子データは、量子プロセッサ/センサー/ネットワーク上で生成/シミュレートできます。これらには、化学物質と量子物質のシミュレーション、量子制御、量子通信ネットワーク、量子計測なども含まれます。

技術的な、しかし重要な洞察は、NISQプロセッサによって生成された量子データはノイズが多く、通常、測定が行われる直前に「もつれる」事です。ただし、量子機械学習をノイズの多いもつれた量子データに適用すると、有用な情報を最大限抽出できます。

これらの手法にヒントを得たTFQライブラリは、量子データの相関を解き、一般化するモデルの開発のための原理を提供し、既存の量子アルゴリズムを改善したり、新しい量子アルゴリズムを発見したりする機会を開きます。

導入する2番目の概念は、ハイブリッド量子古典モデルです。

短期量子プロセッサ(near-term quantum processors)は依然としてかなり小さくノイズが多いため、量子モデルでは量子プロセッサだけを使用する事はできません。NISQプロセッサは、効果を上げるために従来のプロセッサと連携して動作する必要があります。TensorFlowはすでにCPU、GPU、TPUにわたる異種コンピューティングをサポートしているため、ハイブリッド量子古典アルゴリズムを実験するための自然なプラットフォームです。

TFQには、量子ビット、ゲート、回路、測定演算子などの特定の量子計算に必要な基本構造が含まれています。そのため、ユーザが指定する量子計算をシミュレーションまたは実際のハードウェアで実行できます。

Cirqには、コンパイラーやスケジューラーなどのNISQマシン用の効率的なアルゴリズムの設計を支援し、量子回路シミュレーター、そして最終的には量子プロセッサーで実行するハイブリッド量子古典アルゴリズムの実装を可能にする実質的な機構も含まれています。

私達は様々な機械学習でTensorFlow Quantumを使用してみました。

ハイブリッド量子古典畳み込みニューラルネットワーク、量子制御用の機械学習、量子ニューラルネットワークを使ったレイヤー単位の学習、量子ダイナミクス学習、混合量子状態での生成モデリング、および古典的なリカレントニューラルネットワークを介して量子ニューラルネットワークの実践的学習。

TFQホワイトペーパーでは、これらの量子アプリケーションのレビューを提供しています。各例は、github.comからColabを介してブラウザ内で実行できます。

3.TensorFlow Quantum:量子機械学習のためのオープンソースライブラリ(1/3)関連リンク

1)ai.googleblog.com
Announcing TensorFlow Quantum: An Open Source Library for Quantum Machine Learning

2)arxiv.org
TensorFlow Quantum: A Software Framework for Quantum Machine Learning
Supplementary information for “Quantum supremacy using a programmable superconducting processor”

3)github.com
tensorflow / quantum
quantumlib / qsim

4)www.tensorflow.org
TensorFlow Quantum is a library for hybrid quantum-classical machine learning

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