1.AIを利用して乳がんのスクリーニングを改善まとめ
・乳がんは世界中の非常に多くの女性に影響を与えている病気で日本では11人に1人が影響を受ける
・マンモグラフィーやX線撮影が乳癌を早期発見する手段だが撮影した画像から診断する事は簡単ではない
・人工知能が放射線科医をサポートする事で乳癌の徴候をより正確に発見できるようになるかもしれない
2.人工知能による乳がんの検知率が専門家を超える
以下、blog.googleより「Using AI to improve breast cancer screening」の意訳です。元記事の投稿は2020年1月1日、Shravya ShettyさんとDaniel Tseさんによる投稿です。アイキャッチ画像のクレジットはPhoto by Sarah Cervantes on Unsplash
乳がんは、世界中の非常に多くの女性に影響を与えている病気です。英国では毎年55,000人以上が乳癌と診断されており、米国では女性の約8人に1人が生涯でこの病気になります。
(訳注:2014年データで日本の場合は11人に1人だそうです)
デジタルマンモグラフィー、または乳房のX線撮影は、乳癌をスクリーニングする最も一般的な方法であり、毎年4200万件以上の検査が米国と英国で実施されています。しかし、デジタルマンモグラフィが広く使用されているにもかかわらず、乳がんの早期発見と診断は依然として課題となっています。
(訳注:日本のがん検診受診率は米国の80.8%に比べて44.9%と非常に低い割合だそうです)
これらのX線画像を読むことは、専門家でさえ困難な作業であり、多くの場合、偽陽性(訳注:乳癌ではない人を間違って乳癌だと診断してしまう事)と偽陰性(訳注:乳癌の人を間違って乳癌ではないと診断してしまう事)の両方をもたらす可能性があります。これらの不正確さは、癌の発見と治療の遅れ、患者への不必要なストレス、及び既に不足している放射線科医により高い作業負荷をもたらす可能性があります。
過去2年間、英国と米国の主要な臨床研究パートナーと協力して、私達は人工知能が乳癌の検出を改善できるかどうかを確認しています。本日、Natureで初期の研究結果を発表しています。この調査結果は、AIモデルが、身元の特定を不可能にしたスクリーニングマンモグラム(個人の特定に繋がる情報が削除されている)で乳癌を、専門家よりも高い精度、少ない偽陽性、および偽陰性で発見したことを示しています。これにより、乳がん検診を行う放射線科医を潜在的にサポートできる将来のアプリケーションの準備が整いました。
私たちの研究
DeepMind、Cancer Research UK Imperial Centre、Northwestern University、Royal Surrey County Hospitalの同僚と共同で、人工知能が放射線科医をサポートする事で、乳癌の徴候をより正確に発見できるようになるかを確認しました。
人工知能が、スキャンで乳がんの兆候を見つけることができるかどうかを確認するために、英国の76,000人以上の女性と米国の15,000人以上の女性の匿名化されたマンモグラムで構成される代表的なデータセットに基づいてトレーニングおよび調整を行いました。
次に、英国の25,000人以上の女性と米国の3,000人以上の女性の個人が特定できないようにしたデータセットでモデルを評価しました。その結果、人工知能は米国で5.7%、英国では1.2%、偽陽性の減少を実現しました。また、米国では9.4%、英国では2.7%の偽陰性減少を達成しています。
また、AIモデルが他の国の医療システムでも使う事ができるかどうかも確認しました。このため、英国の女性のデータのみでモデルをトレーニングし、米国の女性のデータセットでモデルを評価しました。この別の実験では、偽陽性が3.5%、偽陽性が8.1%減少しています。これは、AIモデルが異なる国の新しい臨床設定でも専門家よりも高い精度診断を実現できるかもしれない可能性を示しています。
これは、乳がんにおける腫瘍の成長と転移の広がりを視覚化したものです。
スクリーニングは、症状が発現する前に、早期に乳癌を検出することを目的としています。
特筆すべき事は、診断を行う際、AIモデルは人間の専門家よりも少ない情報しか与えられませんでした。人間の専門家は(日常業務を行う際は)患者の病歴と以前に撮影したマンモグラムを参照可能ですが、AIモデルはそれらの追加情報なしで匿名化されたマンモグラムのみを使って診断を行いました。これらのX線画像だけで作業したにもかかわらず、このモデルは個々の専門家を超える精度で乳がんを正確に特定できました。
次のステップ
このAIモデルがスクリーニングの精度と効率を高め、患者の待ち時間とストレスを減らすかもしれないという有望な兆候があるため、将来実現されるであろうアプリケーションを楽しみにしています。
Googleの最高財務責任者であるRuth Porat は、10月の投稿「Breast cancer and tech…a reason for optimism」で、この分野における潜在的な技術的ブレークスルーに関して楽観的な見方を示し、乳がんの個人的な経験についても語っています。
しかし、そこにたどり着くには、継続的な研究、行うべき臨床研究、規制当局の承認が必要であり、この研究に触発されたソフトウェアシステムが患者のケアを改善する方法を理解し、証明する必要があります。
この研究は、放射線の範疇だけでなく病理学の範疇で、乳癌の検出と診断を調査している私達の最新の研究です。2017年に、リンパ節標本から転移性乳がんをAIモデルが正確に検出できる方法を示す初期の調査結果「Detecting Cancer Metastases on Gigapixel Pathology Images」を発表しています。
昨年、私たちは、医師が病理スライドで乳癌をより迅速かつ正確に発見するのに役立つディープラーニングアルゴリズムを「Impact of Deep Learning Assistance on the Histopathologic Review of Lymph Nodes for Metastatic Breast Cancer」で発表しています。
今後数年間でパートナーと協力して、機械学習の研究を臨床医と患者に役立つツールに変換していく事を楽しみにしています。
3.AIを利用して乳がんのスクリーニングを改善関連リンク
1)blog.google
Using AI to improve breast cancer screening
Breast cancer and tech…a reason for optimism
2)arxiv.org
Detecting Cancer Metastases on Gigapixel Pathology Images
3)journals.lww.com
Impact of Deep Learning Assistance on the Histopathologic Review of Lymph Nodes for Metastatic Breast Cancer
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