人工知能を創造するために生物の知能の仕組みを探求する試み(5/6)

入門/解説

1.人工知能を創造するために生物の知能の仕組みを探求する試み(5/6)まとめ

・視覚や聴覚、運動系などでは生物的な脳の動きをAIで再現できるところまで研究が進んでいる
・聴覚や視覚など脳の個別機能についてはかなり再現できているものの動作原理はまだ解明できていない
・「真の知性の出現」に至るには脳の動作原理や非常に幅広い分野の横断的協力が必要になる

2.脳の動作は再現できても原理はまだ不明のまま

以下、hai.stanford.eduより「The intertwined quest for understanding biological intelligence and creating artificial intelligence」の意訳です。元記事は2018年12月5日、Surya Ganguliさんによる投稿です。脳科学の用語が頻出しますが、わからない単語は読み飛ばしてしまう事を推奨です。読み難い部分は私の実力不足です。(4/6)からの続きです。

神経科学のためのAIとAIのための神経科学:好循環を生み出す科学的スパイラル

神経科学とAIの相互作用がもたらした近年エキサイティングな研究には、様々なタスクを司る動物の脳領域をディープ又はリカレントニューラルネットワークでモデル化した事が含まれます。

このアプローチは、例えば腹側視覚ストリーム、聴覚皮質、前頭前皮質、運動野、および網膜で成功を収めています。これらの多くでは、ディープ又はリカレントニューラルネットワークが課題を解決するために訓練されている時の内部特徴表現は、同じ課題を解決しようとしている動物で測定された内部神経活動パターンと著しく類似して見えるのです。

このようにして、私達は異なる脳領域が司る異なるタスクの非常に複雑ではありますが驚くほど詳細なモデルを得たのですが、それは根本的な問題を提起しました。

これらのモデルが何をしているのか、そしてそれらがどのように機能しているのかをどうやって理解できるのでしょうか?より正確には、学習済ネットワーク接続とニューラルダイナミクスはどのようしてタスクを実行しているのでしょうか?

訳注:ダイナミクスとは全体と個が相互に影響を与える様子。つまり「個々のニューロンとニューラルネットワークは相互に影響を与えているけれども結局の所は何をしているの?」の理解で良いと思います。

AIは現在、ニューラルモデルが実際に行っていることを理解する上で同じ問題に直面しています。

一部のエンジニアは、ニューラルネットワークがどのように機能するかを理解する必要はないと主張します。うまく機能するかしないかだけが重要です、と。それでも、現在のニューラルネットワークの成功と失敗がそれらの接続性とダイナミクスからどのように生じるかについてのより深い科学的理解は、その後のニューラルネットワークの改善に繋がるでしょう。

実際、科学と技術の相互作用の歴史において、科学的理解が深まった結果、より良い技術に繋がらなかった事はほとんどありません。更に、AIの特定の用途、特に医学的診断または法律では、説明可能または解釈可能なAIが広く採用されるために不可欠です。たとえば、医師や裁判官は、なぜこれらのシステムが決定を下したのか理解できない場合、AIシステムの補助を彼らの業務に使用することを躊躇します。

ゆえに、神経科学とAIはどちらも、どのようにニューラルネットワークが実行されて意思決定が生じているのか、ネットワークの接続性とダイナミクスを理解するという科学的な目標を深く共有します。そこでは、理論的な神経科学、応用物理学、数学からのアイデアや理論開発が、AIシステムの分析に役立ちます。

さらに、AIシステムの振る舞いは、神経科学における実験デザインの性質を変える可能性があり、AIではあまり理解されていないネットワーク機能の側面に実験的な努力の焦点を合わせています。

全体として、次に示すように、神経科学、AI、およびその他の多くの理論分野との密接な関係から、生物学的システムと人工システムの双方から「知性の出現」に関する統一法則がもたらされる可能性があります。


タスク駆動型の視覚系畳み込み再帰モデルは、マシンビジョンタスクを実行し、サルの視覚系のダイナミクスを説明することができます。

生物学的知能と人工知能の両方を支配する普遍的な法則を求めて

人工知能システムの設計において生物学を無視することを主張するためにしばしば引用される事例は、鳥と飛行機の比較です。

結局のところ、飛行機を発明するために羽や羽ばたきのような生物学的成分を真似るのはばかげているようです。

ただし、このアイデアを詳しく調べると、さらに微妙な違いがあります。 飛行の一般的な問題は2つの基本的な問題を解決することを含みます。

(1)前進するための推力の生成
(2)我々が空から落ちないようにするための揚力の生成

鳥と飛行機は実際に推力の問題を非常に異なった方法で解決しています。鳥は羽を羽ばたかせそして飛行機はジェットエンジンを使うのです。しかしながら、鳥も飛行機も全く同じ方法で揚力の問題を解決しています。湾曲した翼の形状を使用して高い空気圧を下に、低い空気圧を上に発生させているのです。従って、滑走する鳥や飛行機は非常によく似た働きをします。

実際、揚力や推力のような力の発生を計算するす空気力学の一般的な物理法則があることを私たちは知っています。そして、生物だろうが人工物であろうが、飛行の問題に対するいかなる解決策も、空気力学の法則に従わなければなりません。

空力的制約の下での飛行の問題に対処する異なる実行可能な解決策はあり得ますが、そのような解決策は共通の特性(すなわち揚力を発生させる方法)を共有しながら同時に他の異なる特性(すなわち推力を発生させる方法)を持ちます。

そして最後に、飛行に関しても、ミバエが実施している生物学的手法からさらに技術的なインスピレーションを得ることができるかもしれません。この種のハエは世界で最も洗練された戦闘機の能力をはるかに凌ぐ急速な空中機動が可能です。

より一般的には、私たちの物理的世界の研究では、その振る舞いを支配する原則や法則が存在するという概念に慣れています。例えば、空気力学が飛行物体の運動を支配するのと同様に、一般相対論は空間と時間のひずみを支配し、量子力学はナノ世界の進化を支配します。私達はニューロンの相互接続である大規模なネットワークの協調的活動から知性がどのように発生するのかを支配する一般的な原則、または規則が存在する可能性があると考えています。

これらの法則は、神経科学、心理学、認知科学およびAIの関連分野を結びつけ統一する事を必要とし、解明には、物理学、数学および統計学のような分析および計算分野からの援助も必要となります。

実際、この記事の著者は動的システム理論、統計力学、リーマン幾何、ランダム行列理論、自由確率理論から 生物学的ネットワークと人工的ネットワークの動作に関する概念的な洞察を得ています。

しかし、非線形分散回路からの知性の出現を支配する一般法則および設計原理を解明するには、新しい概念の開発、解析方法、およびエンジニアリングなど、さらに多くの作業が必要になります。

究極的には、鳥、飛行機、空力の物語のように、知性を持つ機械を開発するという問題に対して多様な解決策があるのかもしれません。生物学的な解決策と人工的な解決策の間で共有されるコンポーネントもあれば、共有されないものもあるでしょう。

以上のように知性の出現に関する一般法則を探求することによって、私達はこの解決策が存在する可能性がある分野をより効率的に理解し、横断することができました。

(人工知能を創造するために生物の知能の仕組みを探求する試み(4/6)からの続きです)
(人工知能を創造するために生物の知能の仕組みを探求する試み(6/6)に続きます)

3.人工知能を創造するために生物の知能の仕組みを探求する試み(5/6)関連リンク

1)hai.stanford.edu
The intertwined quest for understanding biological intelligence and creating artificial intelligence

 

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