1.自動化により消滅の危機にさらされている雇用の実態(2/2)まとめ
・自動化は人間の働く時間を減らすが、それは収入の低下を意味する事でもある
・自動化のリスクが10%高まると、時間あたりの賃金は4.3%低下する
・社会人にとってもスキル再学習やスキルアップのためのトレーニングが重要
2.自動化と賃金の関係
以下、OECD(経済協力開発機構)のサイトに2018年3月に掲載されたStefano Scarpettaさんのレポートの意訳です。前半はこちら。
自動化は賃金と就業時間の下押し圧力になるかもしれません
自動化は遠い世界の話ではなく、既に労働者の賃金に影響を及ぼし始めており、失業率や労働時間と収入に影響がでています。今日では、自動化のリスクが高い職業に従事する人達の失業率は、自動化のリスクが低い職業に従事する人達より高くなっています。更には、ほぼ自動化可能な職業の労働者は、自動化が簡単ではない職業の労働者より労働時間が週に約8時間少ないです。
賃金について見てみると、自動化のリスクが高い職業はほとんどの国では時間あたりの賃金が低いです。平均的には自動化のリスクが10%高まると、時間あたりの賃金は4.3%低下します。この結果は、低スキル労働は既に自動化による影響を非常に受けやすく、この状況は自動化が進展するにつれて更に悪化していくであろう事を示唆します。
人がやるべき仕事がなくなる日が来ない理由
OECD加盟国内では全ての職業が自動化によって影響を受ける可能性があると見込まれていますが、それは技術的な可能性にすぎません。完全または部分的に仕事の自動化を実現するためには、テクノロジーの浸透と採用、新技術に対する人間の労働コスト、特定のタスクを自動化するための社会的環境など、さまざまな要因に依存します。
その仕事が技術的に実現可能になっても、新しい技術の採用は時間差がありますし、ある種のイノベーションは世の中に広く採用される事はありません。例えば、高齢者に対するケアサービスでは自動化が可能になっても人間によるサービスを好むと言う調査もあります。(Arnts等による2016年の調査)
更に、テクノロジーが幾つかの仕事を減らしても、それは新しい仕事を作り出し、既存の仕事を補完するようになります。(Autorによる2015年の調査。OECDによる2017年の調査)歴史的な事例で言えば、銀行のATMは銀行の窓口担当の定型的な業務を減らしましたが、その分、より生産性の高い定型的ではない業務に時間を当てる事ができるようになりました。究極的には関連業務の雇用者を増やしました。(Bessenによる2015年の調査)これと同様に、新しいテクノロジーを開発、実装、メンテナンスするために新たな仕事は作られます。
重要な政策の優先事項
自動化のリスクが職種間で不均等である事実は、新たな雇用が要求する能力を労働者に準備させる政策の重要度を高めます。教育システムは、自動化によってもたらされる変化に対応できるように変更する必要があります。そして、子供たちや若者たちがこのテクノロジーによる変革の波を最大限生かせるようなスキルを教えるべきです。これらのスキルにはコグニティブ(認知)やソーシャルインテリジェンスに加えて、デジタル製品を効果的に使いこなすスキルが含まれます。デジタルテクノロジーはスペシャリスト、もしくはユーザとして使いこなせるようになる必要があります。
既に働いており、その職が自動化によるリスクに晒されている労働者にとって、社会人学習は重要な政策手段です。残念な事に、仕事上、もしくは仕事と関わりのない職業訓練への参加率は、自動化によるリスクに晒されている労働に携わっている人々の間では非常に低い割合に留まっています。
最も自動化のリスクに晒されている職業に従事している労働者は、自動化のリスクが少ない職業に従事している労働者に比べて、12カ月間の期間でオンザジョブトレーニングに参加した回数は1/3未満です。この差は、トレーニング期間にもそのまま適用されます。他の条件が同じであれば、自動化のリスクが高い職業は、自動化のリスクが低い職業より、仕事に関連するトレーニングでも年間29時間少ないです。これらの知見は、職場外での訓練の重要性、特に雇用が自動化のリスクが最も高い労働者の重要性を示唆しています。
スキル再学習やスキルアップのための効果的でターゲットを絞った成人学習の機会は、全てにおいて必要というわけではありません。完全に消滅してしまう小数の雇用のために、労働市場が求める需要を満たすようなトレーニングを社会政策として強力に支援し、達成しなければなりません。新しく生まれる職業は、自動化された職業とまるで異なったスキル、分野の職業となるでしょう。これらの職に転職する労働者には金銭的支援を含む社会政策的に再就職支援が必要になります。
産業間、及び職業間により自動化リスクが異なってくる要因は、業務編成による割合が大きく反映されます。ルーチンタスクの割合がより低い職業、またはルーチンタスクと非ルーチンタスクのバランスの取れた組み合わせは、自動化のリスクを低減します。従って、企業内および業界内の組織における優良事例を奨励することは重要です。
(自動化により消滅の危機にさらされている雇用の実態(1/2)からの続きです。)
3.自動化により消滅の危機にさらされている雇用の実態(2/2)感想
国際機関や海外のレポートは日本語の文章の中でも引用される事が多いですが、国際機関なので加盟国の平均を見るので、日本の事情に必ずしも当て嵌まるわけでもないですね。
まぁ、前編にありましたが、加盟国の中でも社会人トレーニングの受講率がトルコやギリシャの16%からデンマークやニュージーランドの60%とかなり違いがあるので一般論として語る事さえも難しいのかもしれません。
気になったのは自動化によって仕事が増えた例として挙げられているATMの例ですね、直近の日本ではメガバンクが率先して自動化で社員を減らしているので、ATMが生産性の向上に繋がったと言うのであればATM導入時と同様に「もっと生産性の高い定型的ではない業務に配置転換」が行われて欲しいのですが、現実には人員削減や新卒採用にしわ寄せが行ってます。
4.自動化により消滅の危機にさらされている雇用の実態(2/2)関連リンク
1)community.oecd.org
OECD – Automation policy brief 2018
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