1.衛星画像と機械学習を用いて山火事の境界をリアルタイムに追跡(2/2)まとめ
・火災と雲の画素を別々に分類するために、CNNの後に1×1の畳み込み層を設けて分類精度を向上させている
・画像内のほとんどの画素に火災が含まれていないため、非燃焼画素にモデルが注意を払わないように調整している
・モデルを評価したところ、最も深刻な誤検出は炎上箇所の欠落など公式データの誤りの結果であることが判明した
2.2つの分類ヘッドで精度を向上
以下、ai.googleblog.comより「Real-time tracking of wildfire boundaries using satellite imagery」の意訳です。元記事は2023年2月23日、Zvika Ben-HaimさんとOmer Nevoさんによる投稿です。
分類ヘッドを追加して精度をあげているというお話は実務的で参考になりますね。
アイキャッチ画像はstable diffusionのカスタムモデルによる生成で制御室で山火事の衛星写真をやや険しい顔で見ているナウシカとテトをイメージした画像
すべての入力は1km四方の均一な格子形状に再サンプリングされ、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)に入力として与えられます。
私達はいくつかのアーキテクチャを実験しました。そして、火災と雲の画素を別々に分類するために、CNNの後に1×1の畳み込み層を設けることにしました(下図)。
層の数とそのサイズはハイパーパラメータであり、オーストラリアと北米で別々に最適化されています。画素が雲として識別された場合、重い雲はその下にある火災を見えなくするため、火災検出器の出力を上書きします。それでも、雲の分類タスクを分離することで、これらの境界ギリギリの部分をよりよく識別するようにシステムを動機付けるので、火災検出器のパフォーマンスが向上します。
オーストラリアモデル用のCNN設計
北米モデルにも同様のアーキテクチャを使用しています。雲の分類ヘッドを追加することで、火災の分類性能が向上します。
ネットワークの学習には、MODISとVIIRSという極軌道衛星(polar-orbiting satellites)の熱異常データをラベルとして使用しました。MODISとVIIRSは、私達が入力として使用する静止衛星よりも高い空間精度(750-1000メートル)を持っています。しかし、数時間に一度しか観測できないため、急速に進行する火災を見落とすことがあります。そこで、MODISとVIIRSでトレーニング用データを作成し、推論実行時には静止衛星の高頻度撮影画像に頼る事にしました。
火災場面の画像に限定しても、画像内のほとんどの画素は現在燃えていません。非燃焼画素にモデルが注意を払いすぎてしまわないようにするために、学習セットの火災画素をアップサンプリングし、まれに誤分類される火災画素の改善を促すフォーカルロス(focal loss)を適用しました。
2022年マッキニー火災の進行境界線と、近くの小規模火災の様子
モデルの評価
極軌道衛星から得た高分解能の火災信号は、学習データとして豊富な情報源です。しかし、このような衛星は静止衛星と同様のセンサーを使用しているため、システム的なラベリングエラー(例えば、雲による誤検出)がモデルに取り込まれる危険性が高くなります。
このような偏りを排除して私達の山火事追跡モデルを評価するために、地元当局が測定した火災痕跡(全焼面積の形状)と比較しました。
火災の痕跡は火災が収束した後に得られるもので、リアルタイムの火災検知技術よりも信頼性が高いです。各火災痕を、山火事発生時にリアルタイムで検出された全火災画素の和と比較し、下図のような画像を得ます。
この画像で、緑色は正しく認識された火災領域(真陽性)、黄色は火災領域として検出された未火災領域(偽陽性)、赤色は検出されなかった火災領域(偽陰性)を表しています。
火災に対する評価の例。1画素は1km×1km
精度と再現性の指標を用いて、私達のモデルと公式の火災跡を比較します。分類エラーの空間的な重大性を定量化するために、偽陽性または偽陰性の画素と最も近い真陽性の火災画素との間の最大距離をとります。
そして、すべての火災について各指標を平均します。評価結果を以下にまとめます。最も深刻な誤検出は、火災の近くの炎上箇所の欠落など、公式データの誤りの結果であることが判明しました。
私達のモデルを公式発表火災痕比較用テストセットで評価した結果
私達は、米国における山火事について2つの追加実験を行いました(下表参照)。
まず、NOAAのGOES-16とGOES-17の火災プロダクトのみに依存する従来のモデルを評価しました。私達のモデルは、考慮したすべての指標でこの手法を上回り、生の衛星測定が既存のNOAA火災プロダクトを強化するために使用できることを実証しました。
次に、2022年に米国で発生したすべての大規模火災からなる新しいテストセットを収集しました。このテストセットは、火災シーズンが始まる前にモデルが起動したため、トレーニング中に利用することはできませんでした。このテストセットでの性能を評価すると、元のテストセットから期待される性能と一致することが分かりました。
米国での火災に関するモデル間の比較
まとめ
山火事の境界線追跡は、重要な瞬間に正確で最新の情報を人々に届けるというGoogleの幅広いコミットメントの一部です。ここでは、衛星画像とMLを使用して山火事を追跡し、危機的状況にある被災者にリアルタイムで支援を提供する方法を紹介しました。今後も、山火事の境界追跡の品質を向上させ、より多くの国にこのサービスを拡大し、消防当局が重要な情報にリアルタイムでアクセスできるよう支援する活動を続けていく予定です。
謝辞
この研究は、Google リサーチとGoogleマップ、Crisis Responseのチームによる共同研究であり、パートナーシップチームとポリシーチームからの支援を受けています。また、世界各地の消防当局の皆様にも感謝いたします。
2.衛星写真と機械学習を用いて山火事の境界をリアルタイムに追跡(2/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Real-time tracking of wildfire boundaries using satellite imagery