1.量子コンピュータを使って理論検証ではなく新規発見を行う(1/2)まとめ
・量子シミュレーションは理論予測の検証に使われることがほとんどであった
・今回は予測されていなかった現象を実験的調査で初めて発見する事ができた
・光子に「束縛状態」が存在し、それが予想外に堅牢である事を確認できた
2.光子の堅牢な束縛状態とは?
以下、ai.googleblog.comより「Formation of Robust Bound States of Interacting Photons」の意訳です。元記事は2022年12月8日、Alexis MorvanさんとTrond Andersenさんによる投稿です。
アイキャッチ画像はstable diffusion 2.1のDreamBooth拡張をDALL E2のアウトペインティングで更にサイズ拡張した画像で、量子コンピュータを操作するナウシカを表現したかったのですが、廃墟っぽくなってしまったイラスト
量子コンピュータが最初に提案されたとき、量子世界をよりよく理解するための方法として期待されました。
いわゆる「量子シミュレーター(quantum simulator)」を使えば、古典的なコンピューターではシミュレーションが困難な現象を含め、さまざまな量子現象がどのように発生するかを調べるために、量子コンピューターを操作することができるのです。
しかし、有用な量子シミュレータを作ることは困難でした。
これまで、超伝導量子ビットを用いた量子シミュレーションは、既存の理論予測の検証に使われることがほとんどで、新しい現象の探索や発見はほとんど行われてきませんでした。捕捉されたイオンや冷たい原子を用いたいくつかの実験によって、新たな洞察が得られたに過ぎません。
超伝導量子ビットは、普遍的な量子コンピュータの主要な候補の一つであり、古典的な計算機システムの能力を超えているにもかかわらず、これまでのところ、その潜在的能力を新発見に繋げる事は出来ていないのです。
Nature誌に掲載された「Formation of Robust Bound States of Interacting Photons」では、これまで予測されていなかった現象が実験的な調査によって初めて発見されたことを記しています。
まず、Google Sycamore量子プロセッサーを用いて、互いに影響し合う光子の「複合粒子(composite particle)」、及び「束縛状態(Bound state)」の存在を理論的に予測し、それを実験的に確認したことを発表します。
第二に、このシステムを研究しているうちに、束縛状態は壊れやすいと推測されるにもかかわらず、破壊に繋がると予想された微妙な力(摂動)に対して堅牢であることを発見しました。
これは、光子間の相互作用を利用したシステム設計の可能性を開くだけでなく、超伝導量子プロセッサーを用いて非平衡量子ダイナミクス(non-equilibrium quantum dynamics)をシミュレーションすることで、新しい科学的発見をするための一歩を踏み出すものです。
概要
光子、またはマイクロ波のような電磁波の量子は、通常、互いに影響しません。
例えば、交差する2つの懐中電灯の光は、互いに邪魔されることなく通過します。電気通信のような多くの応用分野では、光子がほとんど影響し合わない事は貴重な特徴です。その一方、光を利用したコンピューターなどでは、光子同士が影響し合わない事は欠点となります。
量子プロセッサーでは、2量子ビットの演算によって、量子ビットにマイクロ波を照射し、を相互に影響させる事ができます。
これにより、相互作用する光子の振る舞いを記述する「XXZモデル」をシミュレートすることができます。重要なのは、このモデルが、数少ない積分可能なモデルの一つであるということです。
つまり、対称性が高いので、複雑さが大幅に軽減されるのです。XXZモデルをScamoreプロセッサに実装したところ、驚くべきことがわかりました。それは、互いに影響し合う事によって、光子が束縛状態として知られる束(bundles)になることです。
このよく理解されたモデルを出発点として、私たちはより理解されていない領域へと研究を進めていきました。光子が占有できる敷地(site)を追加することで、XXZモデルで示される高い対称性をわざと壊し、システムをもはや積分できない状態にするのです。
この非可積分領域では、束縛状態(bound states)が溶解して通常の孤立状態(solitary selves)になるカオス的な振る舞いが予想されますが、そうではなく、束縛状態が生き残ることがわかりました。
束縛光子(Bound Photons)
結合状態の形成をサポートするシステムを構築するために、私たちはマイクロ波光子をホストする超伝導量子ビットのリングを研究しています。
光子が存在すれば量子ビットの値は「1」、存在しなければ「0」です。fSimと呼ばれる量子ゲートにより、隣接する敷地を接続し、光子が飛び回って、最も近い敷地にある他の光子と相互作用することを可能にします。
超伝導量子ビットは、マイクロ波光子で占有したり非占有したりすることができます。fSimゲート動作により、光子はホッピングし、互いに相互作用することができます。対応するユニタリー発展(unitary evolution)は、2つのサイト間のホッピング項(オレンジ色)と、隣接する2つの敷地が光子によって占有されたときに追加される位相に対応する相互作用項を持っています。
隣接する量子ビットの間にfSimゲートを実装し(左)、相互作用する光子の挙動をシミュレートする24個の量子ビットのリングを効果的に形成しています。(右)
光子間の相互作用は、いわゆる「位相(phase)」に影響を与えます。この位相は、光子の波動関数の振動を追跡します。
光子が相互作用していないとき、その位相の蓄積はむしろ興味深いものではありません。まるで練習を重ねた合唱団のように、互いに同調しているのです。この場合、最初に他の光子の隣にいた光子は、同調を失うことなく、隣の光子から飛び出していくことができます。
3.量子コンピュータを使って理論検証ではなく新規発見を行う(1/2)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Formation of Robust Bound States of Interacting Photons
2)arxiv.org
Formation of robust bound states of interacting photons