1.機械学習を使って人工呼吸器の制御を改善(1/3)まとめ
・人工呼吸器は患者からの呼吸測定値に基づき、臨床医が処方した呼吸波形に合わせる
・患者の肺の違いや変化に対応可能な堅牢性と望ましい波形に追従する機能の両方が必要
・機械学習により手作業の必要性を減らしながら堅牢性と性能の向上できる可能性を実証
2.人工呼吸器の制御
以下、ai.googleblog.comより「Machine Learning for Mechanical Ventilation Control」の意訳です。元記事は2022年2月17日、Daniel SuoさんとElad Hazanさんによる投稿です。
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機械式人工呼吸器は、呼吸が困難な患者や自力で呼吸ができない患者に重要なサポートを提供します。日常的な麻酔から新生児集中治療、COVID-19パンデミック時の生命維持まで、さまざまな場面で頻繁に使用されています。
一般的な人工呼吸器は、圧縮空気源、肺への空気の出入りを制御するバルブ、人工呼吸器と患者をつなぐ「呼吸回路(respiratory circuit)」から構成されています。場合によっては、鎮静状態の患者を気管から肺まで挿入したチューブで人工呼吸器に接続することもあり、これは侵襲的換気(invasive ventilation)と呼ばれるプロセスです。
機械式人工呼吸器は、自力で呼吸が十分にできない患者に代わって呼吸を行うものです。侵襲的換気では、制御可能な圧縮空気源が、呼吸回路と呼ばれるチューブを介して、鎮静状態の患者に接続されます。
侵襲的換気と非侵襲的換気のいずれにおいても、人工呼吸器は患者からの呼吸測定値(気道内圧、1回換気呼吸量など)に基づき、臨床医が処方した呼吸波形に合わせて実行します。
この困難な作業を、患者の肺に危害を与えないように実行するためには、患者の肺の違いや変化に対応可能な堅牢性と、望ましい波形に追従する機能の両方が重要です。
そのため、人工呼吸器は、その性能が患者のニーズに合っているか、肺に損傷を与えないかを確認するために、高度な訓練を受けた臨床医の大きな注意が必要になります。
論文「Machine Learning for Mechanical Ventilation Control」では、侵襲的人工呼吸のための医療用人工呼吸器制御を改善するための深層学習ベースのアルゴリズム設計に関する探索的研究を発表しています。
人工肺からの信号を用いて、気道圧力を測定し、より良く、より一貫して規定値に一致するように気流に必要な調整を計算する制御アルゴリズムを設計しています。他のアプローチと比較して、臨床医の手作業による介入を少なくしながら、堅牢性と性能の向上を実証しており、このアプローチが患者の肺に害を及ぼす可能性を低減できることを示唆しています。
現在の手法
現在、人工呼吸器の制御は、PID(Proportional, Integral, Differential)方式と呼ばれる、観測値と希望値の誤差履歴をもとにシステムを制御する方法が用いられています。
PID コントローラは、人工呼吸器の制御に、
比率(P)- 測定された圧力と目標圧力の比較
全体(I)- 以前の測定値の全体
差分(D)- 以前の2つの測定値の差
の3つの特性を使用します。
PIDは17世紀から使われており、現在では工業用(熱や流体の制御など)と民生用(エスプレッソコーヒーマシンの圧力制御など)の両方で多くのコントローラの基礎となっています。
PID制御は,息を吸うときに肺圧を急激に上げるP制御の鋭い反応性と,息を吐く前に息を止めるI制御の安定性に依存しますが、底堅い性能です。
しかし、操作者は、患者に合わせてベンチレータを調整する必要があります。そのため、多くの場合、P制御時の過剰反応「リンギング」と I制御の肺圧上昇が緩慢になる事のバランスをとるために、しばしば繰り返しチューニングを行う必要があります。
現在の PID 法は、目標値を超過したり下回ったりする傾向(リンギング)があります。患者の生理状態は様々で、治療中に変化することもあるため、熟練した臨床医は、上記の例のような激しいリンギングが起こらないように、常に監視し、既存の方法を調整しなければなりません。
これらの特性をより効果的にバランスさせるために、PID制御よりも幅広く、適応性の高い制御信号を生成する、ニューラルネットワークベースのコントローラを採用しました。
3.機械学習を使って人工呼吸器の制御を改善(1/3)関連リンク
1)ai.googleblog.com
Machine Learning for Mechanical Ventilation Control
2)arxiv.org
Machine Learning for Mechanical Ventilation Control
3)sites.google.com
Tutorial:Online and Non-Stochastic Control
4)www.kaggle.com
Google Brain – Ventilator Pressure Prediction
臨床医が気道圧力単位で処方した呼吸波形(オレンジ)と実際の圧力(青)の例
何らかのコントローラアルゴリズムで行ったもの