1.人生100年時代のスポーツについてまとめ
・70代で高地トレイル等の過酷なレースを完走できる人も世の中にはいる
・70代でフルマラソンを4時間以内に完走できる人も世の中には沢山いる
・70代はまだスポーツも現役同等レベルに体を動かせる事を前提で良いのかもしれない
2.チャレンジする事の重み
ランニングに関する雑誌を買おうと思い立ったとして以下のAとBのどちらの雑誌を買いますか?
A:足の長い綺麗なモデルさんが颯爽と走っている表紙
B:汗まみれのおっさんが二人写っている表紙
特集内容も当然影響するとは思うのですが、「インスタ映え」なんて言葉が流行っている現在ではAが圧勝と思うのです。しかし、以下でBが如何に凄いのかを熱弁します。
アイキャッチ画像は夏のモンブランでクレジットはPhoto by Boris Dunand on Unsplash
ウルトラマラソンという言葉があります。
定義が完全に定まっているわけではないようなのですが、
・フルマラソン、つまり42.195キロを超える距離を走るマラソン
・100km以上を走るマラソン
のいずれかの意味で使われる事が多いようです。日本では意外に人気があって4大ウルトラマラソンとして柴又、サロマ湖、四万十、沖縄の4レースが有名です。
また、トレイルランニングと言う言葉があります。草原や登山道などの舗装されていない不整地を走る陸上競技の事で、登山を軽装で行うようなものなので登山と同様、練習中や競技中に亡くなられる方も珍しくない過酷な競技です。
いずれも一般人にはほぼ馴染のない言葉で「フルマラソン以上の距離を走る事に何の意味があるのか?」「登山道を軽装で走るなんて危険極まりない!」と、理解しがたく感じる人もいると思います。
しかし、実は「ウルトラトレイル」という、更に理解しがたい言葉があります。言葉通り、100km以上の不整地を走る競技の事なのですが、アメリカではキロメートルではなくマイル(1マイル=1.6km)で距離を計測するので、区切り良く100マイル、すなわち160km以上の不整地を走るレースが主流となっている競技です。
ウルトラトレイルで日本の先駆者と言えば、鏑木選手です。
ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)、つまり美しい山としても有名なモンブラン周辺をフランスを起点にイタリア、スイスの順に一周する全長160km以上、累積標高差9,000m以上、制限時間約2日間という過酷なレースに挑戦し、2009年、40歳の時に3位になりました。
昨年、すなわち、2019年に50歳でもう一度、UTMBに再挑戦され、30時間30分21秒で125位の結果を残されています。
UTMB再挑戦のニュースは日経新聞等、様々なメディアにも掲載されていたので、もしかしたらお読みになった方もいるかと思うのですが、フルマラソンの4倍近い距離、富士山の標高の2.3倍以上相当のアップダウンの不整地を、トップ選手でも20時間、人によっては寝ずに40時間以上走り続ける想像を絶するレースに50歳で再挑戦するチャレンジでした。
「週に数キロ走ってま~す」くらいの運動量の私のレベルだと、整地されたロードレースのフルマラソンを6時間くらいのゆったりしたペースで走っても脚が生まれたての小鹿のようにプルプルし始めるくらいのダメージになるのですが、トレイルって足の踏み場を間違えると簡単に足首がコキっとなるし、下り坂などでは加速しながらすっ転ぶハメになるので、打ち身、擦り傷、捻挫、打撲など、脚に負担と言うレベルではなく、足の爪って強打すると靴の上からでも割れちゃうんだね~、爪が割れた時ってネイルアート修復セットがとても便利なんだね~、などなどケガに関する豆知識を沢山習得する事ができるレベルです。
想像してみて欲しいのです、下りの坂道で一面が緑の苔に覆われていて、唯一、苔がない部分は誰かが盛大にすっ転んだ跡って状態で、「緑の部分は滑るのでなるべく踏まないでくださいね~」と言われて、どうみてもそれは無理だろうと思っていると、熟練ランナーの皆さんが忍者の水上走り的な、右の足が滑る前に左の足を前に出す感じでシャカシャカシャカシャカと華麗な脚運びで降っていくのを見た時の私の気持ちを。
初心者向けトレイル講座などでもこのくらいの難度のコースがあったりするので、トレイルを走るのってほんと、危険と隣り合わせな事なのですが、そんなコースを何十時間も、意識も朦朧とし、自分の思うように体を動かす事が出来なくなってくるような状態で走り続ける、人によっては幻覚が見える事などもあるらしい、命がけと言う表現が相応しいレースです。
さて、鏑木選手が2009年に3位となったのは実は3度目の挑戦でした。
初挑戦は2007年のUTMB、当時国内のトレイルレースをほとんど制覇し、意気揚々で挑んだ初レースは12位、トップに3時間以上の差をつけられ、疲労困憊でホテルに戻って寝込みながらTVを付けてみると、おじいさんのゴールシーンが流れており、最初は時間ギリギリで完走した人なのかなぁ?と思って観ていたそうです。
おそらく、こんな感じのシーンだったのだろうなぁ、と想像できるのですが、
実はそのおじいさんこそがマルコ・オルモ、2007年UTMBの覇者でした。
しかも、2006年に続いて2007年も優勝、つまり連覇です。
そして、2007年優勝時58歳、今風に言えば、アラカン、正真正銘のアラウンド還暦です。
一人でヒョコヒョコと走っているだけに見えたかもしれませんが後半独走の圧勝だったからです。
私に言わせれば100マイルレースを完走できる人は全員超人なんですけれども、アラカン連覇と聞くと、もはや人外、人のコトワリを超えています。
つまり冒頭の雑誌B、RUN+TRAILの表紙で左側に写っているマルコ・オルモとは人類のカテゴリから外して別枠扱いにしておかないと、ウルトラトレイルってアラカンでも連覇できるレースなんですねってよく知らない人が勘違いしてしまうかもしれない異次元枠の人なのです。
今のUTMBはレベルが上がっているから当時のマルコが出場しても優勝できないだろう、なんて話もあるのですけれども、その比較が違和感なく成立しているところが既にオカシイのです。何故、マルコの年齢を固定して2020年に持ってくるのだと、2020年のトップ選手の年齢を58歳にしてから2007年に持って行って比較しなければ人類としてイーブンの比較にならないだろうと。
そして、マルコ選手の右隣に写っている人が横山峰弘選手、鏑木選手と語り草になるような熾烈な競争を繰り広げた選手で、UTMBも鏑木選手が3位だった2009年時に横山選手は6位でした。
横山選手も50歳、40代は怪我に泣かされた苦難の日々だったそうですが、ようやく足が治ったためもう一度UTMBで勝利を目指すと。非常にまじめな努力家で根強いファンも多い方なのですが、練習を頑張りすぎると故障してしまうでしょうし、今年って練習どころか日常生活さえままならないなかで、マルコ・オルモ選手の記録に挑む事の困難さとリスクはご自身が一番よくわかっていると思うんです。
奥さんもお子さんもおられますし、そんな状況でのチャレンジは「年をとっても挑戦を忘れない」なんて軽々しく言えるような重みではなく、横山選手も凄いし、奥さんも凄いし、これを表紙にした編集者も凄いなぁ、とつくづく思ったのです。
ちなみにマルコ選手はご本人のFaceBookを見たら先週、スタート地点の標高が2017メートルでゴール地点の標高が3026メートルと言う高山系のトレイルを完走してました。今年の10月8日で72歳になるはずです。
また、モデルさん(出岡美咲さん)が表紙の雑誌A、ランナーズ2020年4月号の方でも
・100回フルマラソン完走、全てサブフォーの71歳が綴るランナーとしての生き方
・78歳の現役サブフォーランナーが若者たちにお説教!?
なんて特集が組まれてますから、人生100年時代の70代はまだスポーツも現役同等レベルに体を動かせる事を前提にしてライフプランを作るのは無茶な前提ではないのかもしれません。
サブフォーとはフルマラソンを4時間以内に完走する事で、このタイムを達成できる人は市民ランナーの上位2割程度と言われており、かなり走り込まないと達成できないレベルです。私個人もまずはハーフマラソン2時間切りを達成してからサブフォーを狙えたらなぁ、なんて漠然と考えて10km55分、16km1時間25分、と段々と距離を増やしてきていたのですが、ハーフマラソンをエントリーしてた大会は中止になるし、ステイホーム中に体重は増えるし、猛暑のせいかすぐにヘロヘロになるし、と全く思う通りにいってません。
しかし、日々の運動も漫然とこなすのではなくこういった偉大な先達の活躍を思い浮かべながらやると、もっと楽しくなってくるなぁ、と思っています。
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