マイクロ波を増幅して量子コンピューターの限界を押し上げる(2/2)

量子コンピュータ

1.マイクロ波を増幅して量子コンピューターの限界を押し上げる(2/2)まとめ

・量子ビット状態の測定を助ける新たに開発した増幅器は複雑さを比較的抑えて既存の設計と完全に互換性を持たせる事が出来た
・この増幅器では1つでより多くの量子ビットを測定できるようになり、高い電力を必要とする技術が実現可能になった
・今後もより高度な増幅器、指向性増幅器、マイクロ波サーキュレータのような非反復デバイスへの応用を研究していく予定

2.超電導マイクロ波増幅器の回路

以下、ai.googleblog.comより「Amplification at the quantum limit」の意訳です。元記事の投稿は2023年2月9日、Ted WhiteさんとOfer Naamanさんによる投稿です。

今回のお話も専門的でやや地味ですが、人工知能/機械学習も当初は学習用データセットの収集や、性能を測るベンチマークの開発から着手していたので、凄い技術も突然開花するのではなく、地道な基礎研究の積み重ねが花開いた結果なのだろうな、と本当に思います。

アイキャッチ画像はWaifu Diffusion 1.5 Betaのカスタムモデルによる生成

結果

ジョセフソン接合の臨界電流は、増幅器の電力操作を制限します。

しかし、この臨界電流を増加させると、インダクダンスが変化し、増幅器の動作周波数が変化します。これらの制約を回避するため、私達は標準的な2接合DC SQUIDを、2つのRF-SQUID配置を並列に配置した非線形チューナブルインダクタ(スネークインダクタ(snake inductor)と呼びます)に置き換えたのです。

各RF-SQUIDはジョセフソン接合と幾何形態のインダクタンスL1、L2で構成され、各配置には20個のRF-SQUIDが含まれます。今回の場合、標準的なDC SQUIDの各接合は、これらのRF-SQUID配置の1つに置き換えられます。

各RF-SQUIDの臨界電流ははるかに大きいのですが、インダクタンスと動作周波数を同じにするために、それらを連結しています。これにより、デバイスの複雑さは比較的小さいものの、各増幅器の電力入力を約100倍に向上させることが可能になりました。また、インピーダンスマッチング回路を用いて広い測定帯域幅を確保する既存の設計と完全に互換性があります。


google製超電導マイクロ波増幅器の回路図
分割バイアスコイルにより、スネークインダクタのDCおよびRF変調が可能であり、シャントコンデンサにより周波数範囲が設定されます。電流の流れはアニメーションで示されており、バイアス線に印加された電流(青)が、スネークに循環電流(赤)を発生させることが分かります。テーパーインピーダンス変換器は、デバイスの負荷Qを下げます。Qは周波数÷帯域幅で定義されるので、周波数が一定のままQを下げると、増幅器の帯域幅が広がります。実機で使用した回路パラメータの例は、Cs=6.0pF、L1=2.6pH、L2=8.0pH、Lb=30pH、M=50pH、Z0=50オーム、Zfinal=18オームです。デバイスの動作は、小さい信号(ピンク)が増幅器の入力に反射している状態で示されています。大きなポンプトーン(青)がバイアスポートに印加されると、増幅された信号(金)とアイドラー(これも金)として知られる二次トーンが生成されます。

非線形共振器の顕微鏡写真
大型の平行平板コンデンサー、非線形スネークインダクター、インダクタンスを調整するための電流バイアストランスからなる共振回路を示します。

この性能向上は、増幅器の飽和電力(増幅が1dB圧縮されるポイント)を測定することによって行われます。また、この電力値を周波数に対して測定し、増幅器の増幅や帯域幅の中心からの距離によってどのように変化するかを確認します。増幅器の増幅はその中心周波数に対して対称なので、これを絶対離調で測定します。これは、単に増幅器の中心周波数とプローブトーンの周波数の差の絶対値です。


超伝導量子プロセッサーで校正した入出力飽和電力(1dB増幅圧縮点)対増幅器中心周波数からの絶対離調度

結論と今後の方向性

新しいマイクロ波増幅器は、私達の量子ビット測定システムにとって大きな前進となります。この増幅器によって、1つのデバイスでより多くの量子ビットを測定できるようになり、各測定トーンに高い電力を必要とする技術も可能になります。しかし、まだ検討したいことがたくさんあります。例えば、高度なインピーダンス整合技術を用いた増幅器、指向性増幅器、マイクロ波サーキュレータのような非反復デバイスへのスネークインダクタの応用を現在研究しています。

謝辞

私たちのマイクロ波増幅器の作成と測定を可能にしたインフラとサポートを提供してくれたQuantum AIチームに感謝します。また、上記の将来の研究に貢献してくれた有能なGoogleリサーチインターンの皆さんにも感謝します。Andrea Iorioは、増幅器を自動的に調整し、ローカルパラメータ空間のスナップショットを提供するアルゴリズムを開発し、Ryan Kaufmanは、多極インピーダンスマッチングネットワークを使用して新しいタイプの増幅器を測定し、Randy Kwendeは、スネークインダクタに基づく一連のパラメトリック装置を設計およびテストしてくれました。彼らの貢献により、私たちは増幅器に対する理解を深め、次世代のパラメトリック駆動デバイスを設計することができます。

3.マイクロ波を増幅して量子コンピューターの限界を押し上げる(2/2)関連リンク

1)ai.googleblog.com
Amplification at the quantum limit

2)arxiv.org
Readout of a quantum processor with high dynamic range Josephson parametric amplifiers

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