電子カルテのためのディープラーニング

  • 2018.05.13
  • AI
電子カルテのためのディープラーニング

1.電子カルテのためのディープラーニングまとめ

・Googleが従来手法より拡張性と正確性が高い診断予測人工知能を発表
・電子カルテのデータを修正する事なくそのまま使う拡張性を実現
・3つの予測で従来のロジスティック回帰予測より高い正確性を実現

2.人工知能の診断予測に求められる事

患者が病院に入院すると、様々な不安が沸き起こる。いつ、家に帰る事ができるだろうか?問題なく回復するのだろうか?今後も通院しなければならないのだろうか?これらの質問に正確に答える事は医師や看護師の負担を軽くし、治療をより安全にし、迅速な対応を可能にする。予測ができていれば、患者の健康状態が悪化しても、医者はより積極的な診断や治療を行う事が出来るのだ。

将来を予測する事は人工知能が得意とする分野の一つである。翻訳や通訳に使われている人工知能は次に出てくる単語を予測する事で精度を上げている。しかし、Googleは翻訳に使われている人工知能がヘルスケア分野の診断予測にそのまま応用できるか疑問に思っている。役に立つレベルの診断予測は少なくとも以下が求められる。

(1)拡張性
異なった病院システムで使われても、簡単に診断予測ができるべきである。医療データは非常に複雑で多岐にわたるため、この要件は簡単に実現できるものではない。

(2)正確性
医師に問題を警告する際に、誤警告が多くてはならない。電子カルテの普及とともに、Googleは電子カルテからより正確な診断予測モデルを作成できるようになった。

上記2つの実現のため、Googleはスタンフォード大学とシカゴ大学の医学部と共に下記論文を発表した。

「Scalable and Accurate Deep Learning with Electronic Health Records」

本論文でGoogleは個人情報を削除した電子カルテにディープラーニングを用いて、幅広い予測を行った。重要な事は、データをそのまま使った事である。データを改めて人工知能が扱いやすいように変換、整備など一切せずに学習用データとしてそのまま使用する事に成功した。

(1)拡張性
米国で使われている電子カルテ(EHR)は非常に複雑である。体温データでさえ、測定場所がどこかにより違う意味を持つ。
・額で直接
・舌の下から
・鼓膜を通じて

更に各保険システムはEHRに独自のカスタマイズを施しているため、同じ症例の患者であっても病院が異なると違う症例に見えるケースがある。以前のブログ記事で説明した通り、事実上の標準であるFHIR規格の電子カルテに統一させる必要があった。

FHIR規格に統一後は、各データを手動で選択したり修正する必要はなかった。電子カルテは時系列データであるため、時系列データを扱う事が得意なリカレントニューラルネットワーク(RNN)とフィードフォワードネットワーク(FFN)を組み合わせた新しい学習モデルを開発した。こうして、病院間のデータの違いを吸収し、人間によるデータ修正も不要な拡張性の高い予測を実現した。

(2)正確性
診断の正確性を評価する一般的な方法はレシーバ・オペレータ曲線と呼ばれる測定方法によるものである。この測定方法では、1.00が完全な診断であり、0.50がサイコロを振って診断したのと同じレベルである。この測定方法を用いて、今回開発した人工知能に「患者が病院に長期間入院するか?」を予測させた結果、0.86となった。今まで予測に使われていた従来手法(ロジスティック回帰)では0.76である。新人工知能は3種の予測全てで従来手法を上回った。

1.患者の長期入院の確率
新人工知能:0.86
従来手法:0.76

2.入院患者の死亡率
新人工知能:0.95
従来手法:0.86

3.退院後の予期せぬ再入院
新人工知能:0.77
従来手法:0.70

この性能差は統計的に有意である事も確かめられた。

Googleはこの人工知能で、医師が患者をどんな病気と診断したか識別する事にも成功した。例えば、ある医師が高い体温、発熱、及び酷い咳をする患者にセフトリアキソンおよびドキシサイクリンを処方した場合、人工知能は医師が患者を肺炎と見なして治療している事を識別できる。強調しておくが、これは人工知能が患者を診察するために行われた実験ではない。新人工知能は、患者の病状、患者が受けている治療や投薬、臨床医のメモなどから患者の状況を知るので、患者にとってはより良い聴き手となる。

医療分野における人工知能の重要な目標の一つは人工知能の診断結果を人間が理解しやすいようにする事である。例えば、人工知能が患者の写真のどこに注目して異常を検知したのかを説明できないと医療の現場では使いにくいし、臨床医にとっても有益ではない。そのため、患者の状態と診断を人工知能が結びつけることができるようにする事は重要なのだ。

医療分野における人工知能はまだ早期実験段階であり、今回も過去データを用いた実験のみが行われた。事実、この論文は人工知能を用いて医療をより良くできると言う仮説を検証するための必要な作業の始まりにすぎない。

人工知能は医者が退屈な作業や管理に時間を取られる事なく重要な診断に集中する事の手助けができるだろうか?

人工知能は患者がどこにいても高品質なヘルスケアを受ける事を助ける事ができるだろうか?

Googleは、医師や患者と協力して、これらの質問の答えを探す事を楽しみにしている。

3.電子カルテのためのディープラーニング関連リンク

1)ai.googleblog.com
Deep Learning for Electronic Health Records

2)www.nature.com
Scalable and accurate deep learning with electronic health records