TensorFlowを使用したM理論への新しいアプローチ

入門/解説

1.TensorFlowを使用したM理論への新しいアプローチ

・現在の量子力学では4つの基本的な力のうち3つしか説明できていない、重力が未解明
・重力を含めて理論的に説明しようとすると膨大な計算が必要になり計算不能
・TensorFlowによって簡略化を行いM理論の解釈やに理論物理学をさらに進歩させる手法を提案

2.理論物理学と機械学習

以下、ai.googleblog.comより「New Solutions for Quantum Gravity with TensorFlow」の意訳です。元記事は2019年11月15日、Thomas Fischbacherさんによる投稿です。

機械学習(ML)の研究における最近の進歩は、当初考えられていた領域をはるかに超えた研究課題に役立つツールの開発をもたらしました。

ロボットに投げ方を教えることから分子の嗅覚特性を予測することまで、様々なトピックにこれらのツールを適用する事が現在、実現され始めています。

こういった進歩に触発され、私たちは基本的な理論物理学の理解を進めるために、MLで良く使用されているコンピューティングプラットフォームであるTensorFlowを使うという課題に取り組みました。

おそらく、基本的な理論物理学における最大の未解決の問題は、現在の量子力学では4つの基本的な力のうち3つしか説明できていない事です。

電磁力(electromagnetic)、強い力(strong forces)、弱い力(weak forces)、そして重力(gravitation)。現在、重力を含む完全な量子理論はありませんが、実験的観測とは一致しています。(すなわち、量子重力の正確なモデル)

訳注:ここで言っている4つの基本的な力とは、素粒子間に働く力です。自然界に力は4種類しか存在しないとされ、力が働く距離や何が力を伝達しているかによって分類されています。

名称 力を伝達するゲージ粒子
強い力 グルーオン
電磁力 光子(フォトン)
弱い力 ウィークボソン
重力 重力子(グラビトン、まだ発見されていない。理論的にも説明できていない)

重力子も含めて世界を説明しようとする統一理論はいくつかあります。そのうちの有望なアプローチの1つは、多くの数学的な整合性チェックを受けつつ生き残っており、1995年にエドワードヴィッテンによって提案されたM理論(M-Theory)、または「The String Theory(弦理論)」として知られています。

私達は通常、3つの空間次元(x, y, およびz)と時間(t)の4つの次元で全てを表現しています。しかし、M理論は、非常に短い時間では、宇宙は11次元で表現されると予測しています。

想像できるように、私達が普段観察している4次元の世界と、M理論によって予測される11次元の世界の関係を説明できるように確立することは、分析的に非常に困難です。実際、宇宙に存在する全電子の数よりも多くの項を持つ方程式を解く操作が必要になる場合があります。

この夏、私たちはJournal of High Energy Physicsに記事を公開し、MLテクノロジーを創造的に使用することでこのような問題に対処する新しい方法を紹介しました。

TensorFlowによって可能になった簡略化を使用して、特定のタイプのM理論時空ジオメトリの既知の(安定または不安定な)平衡解の総数を、未発見物質であるタキオンの存在を仮定しない4次元モデル宇宙を含めて194にする事ができました。

私たちが調査したジオメトリは、潜在的に重要な条件を無視する必要のない正確な計算で(ほとんど)実行可能であるという点で特別です。また、関連する研究で使用するための、より有益なGoogle colabと、より強力なPythonライブラリもリリースしました。

TensorFlowのM理論への適用
この作業は、「数値的な解析と分析的な解析の混合アプローチ」が純粋に分析的な方法よりも強力であるという重要な観察に基づいています。

総当たりで解析ソリューションを見つけることを試みる代わりに、モデルを解明する初期探索にTensorFlowを活用する数値的アプローチを使用します。これにより、特定の組み合わせを厳密な数学的手法でテストおよび分析できる仮説が得られ、最終的に推測された解が実際に存在する事が証明されます。これは、理論物理学をさらに進歩させるための新しい方法論を表しています。

結論
これらの研究がM理論の解釈における重要なステップとなり、研究コミュニティがTensorFlowなどの新しいMLツールを使用して他の同様に複雑な問題にアプローチする方法を示すことを願っています。私たちは、新たに発見された方法をすでに理論物理学研究に応用しています。

謝辞
この調査は、Iulia M. Comşa, Moritz Firsching そして Thomas Fischbacherによって実施されました。応援とサポートを提供してくれたJyrki Alakuijala、Rahul Sukthankar、およびJay Yagnikにも、感謝します。

 

3.TensorFlowを使用したM理論への新しいアプローチ関連リンク

1)ai.googleblog.com
New Solutions for Quantum Gravity with TensorFlow

2)github.com
google-research/m_theory

3)research.google.com
SO(8) Supergravity Extrema

4)link.springer.com
SO(8) supergravity and the magic of machine learning

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